第15話

 でも、誰だってそう思うでしょ! あんなグータラ自作自演放火魔クソ男より、世のため人のために情熱と志を持って戦地で奮闘するお医者さんの方が、男性としてだけじゃなく、人として素晴らしいじゃん!


 あーもう! 思い出したらまた腹が立ってきた!


 だってね、あのクソ男、わたしが前の職場辞めた時、すっっっごくガッカリして、何度も何度も何度も何度も×100000『どうして辞めちゃったの~?』って訊いてきて……あれって、わたしにあの会社を辞めてほしくなかったんだね。給料もまあまあ良かったし、一生ヒモ生活を送れれば安泰あんたいだったろうしね。

 

 でもね、γ-GTPの数値がバカ高いのに、毎日酒飲んで猫と一緒にゴロニャンダラダラしてる半アル中野郎の面倒なんてたくないし、将来のことを考えても、別れて正解だったよね。


 ああ、ちなみにあの会社、新人をけ者にして仕事を教えようとしない脳腐敗連中ばっかりだったから辞めたの。後から謝ってきた奴もいたけど遅いわ。謝れば何でも許されると思ってるとしたら、人生舐めてる。いつだって自分の言動には責任を持たなきゃいけないんだから。

 

 謝って済むこととそうじゃないことってあるでしょ。少なくとも、明確な悪意を持って何かを仕掛けられたら、たとえ後から何十回謝罪されても許せないと思う。執念深いとか言われそうだけど、わたし、神様でも仏様でもないから。


 あんな大外おおはずれの掃き溜め会社、よく一年も勤められたなぁって、自画自賛しちゃうよ。わたしって我慢強い!

 

 あ、それより返信来てた。今度はずいぶん長いね。

 

 【僕も遠く離れた相手との絆を信じていた。互いに想い合い大切にし合える女性に必ず出会えると確信していたんだ。


 一人でいると結構気が滅入めいる。というのも、僕達人間は困難におちいった時、相談に乗ってくれたり元気づけたりしてくれる、り所となる誰かが必要だから】


 うんうん。まさしくそのとーり! ローランド、さとりを開いてるね!

 

 【実際、忠義や尊厳なんて永遠の幸せのためには取るに足らない倫理だ。もし君が忠義や尊厳を兼ね備えていなければ、たとえ君がどんなに誰かを深く愛していたとしても、きっと成功しないだろう】


 え? 何が言いたいのか全然分からない? 忠義と尊厳の存在価値があやふやだって?

 

 そうちゃん、あせらないで。まだ続きがあるよ。とにかく読んでみようよ。


 【愛は忍耐だ。そして自分自身の時間も物も全てを捧げて、信頼し合い、何を差し置いても互いのために尽くす。真の愛は目や耳では探すことができない。本当に信じられて、死ぬまで決して消えることのない唯一の存在は、君のハートだ】


 ……あ~、そうだね。やっぱり、忠義と尊厳が行方不明というか置き去りにされちゃってるみたいな。

 

 でも、立派な考えだよ。なんか哲学者みたい。特に、後半部分は胸キュン(♥▽♥)

 

●翌日の夜

 

 〖ローランド、あなたは単なる医者ではありませんね。聖職者のようでもあります〗

 

 【こんばんは。君は僕にとって最愛なる友人だ。今日の仕事はどうだった?

 

 大抵、遠く離れた相手との絆はみんな信じていない。君の家族や親友でも、ネガティブなことしか言わないと思う。君が傷付くといけないから、彼らの言うことはに受けない方がいい。誰しも、遠距離関係で物事が上手く行くはずはないと言う。まあ、この関係が強い絆になるであろうことは、僕達にとっても驚きだよ】


 そうちゃん、また疑ってるでしょ。

 

 家族や友達の話は聞くなって言っている時点で、もう『自分は ひでなしブタ野郎です!』と暴露しているようなものだ、とか思ってる?

 

 ローランドは一般論を言ってるだけだよ。そりゃあ普通に考えたら、SNSで知り合った相手と真面目にお付き合いするなんて、正気の沙汰さたじゃないんだから。


 ローランドはそれを承知しているの。これって至極しごく常識的見解だよ。


【僕への信頼を強く保つために、神に祈って、そして自分自身を信じてほしい。君の愛する人は、神の恵みと力が、この遠距離関係を必ずより良い方向へ導いてくれると信じているから】


 間違いない! ローランドは本物のお医者さんだよ。キリスト教圏の人達って、悪いことをする時に神様をダシに使ったりしないから。ほら、欧米諸国って、どんなヤンキーでも、教会の壁にだけは絶対落書きしないじゃん。


 ……って、そうちゃん! そこで『※あくまで彩奈さんの個人的見解です』とか注釈を投入しないで!

 

 とりあえず返信するよ。

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