第23話

 〖プーチソはこの地球上の全てを、自分自身さえも消し去るつもりなのかもしれませんね。あなたの言う通り、彼はまさしく狂った悪魔だと思います。

 

 今夜は東京から来た友達とディナーをエンジョイしました。この平和が続くように、そしてあなたとこうしてLINEのやり取りを続けられるように、せめてわたし達自身は平安を保ちましょう〗

 

 ベストな返し! わたし天才! 自画自賛させて。


 【一刻も早く、この戦地から出たいよ。そして君と愛に満ちた夜を笑いながら過ごしたい。


 こんばんは、my love。今日の調子はどう?】

 

 あ、いつものローランドに戻った。でも、まだ闇落ちの危機からは脱していないね。『?』が一つだし。


 〖実は凄く楽しみなんです。明日、東京からの友達を、地元の幾つかの有名どころへ案内するつもりです。いつか、そう遠くない日に、あなたのことも案内したいです!〗


●翌朝


 【ありがとう。東京からのお友達は何人??

 

 良くない出来事を考えてはいけません。それは無用なことです。天の父が、全ての事柄において、君に祝福をお与えになりますように。君が魅力的で輝く笑顔でいられますように。


 おはよう、my love】


 良かった。ローランド、やっと闇から遠退いたね。聖書の御言葉や挨拶を変則的にブッ込んでくるやり方は相変わらずだけど、ちゃんと『??』になってる。


 〖友達は一人です。眩しいほどの晴天なので、良い観光をさせてあげられると思います〗


 【それは楽しみだね。もう朝食は食べた??】


 友達と遊ぶって言ってんだろ! もうLINE送ってくんじゃねーよ!


 そんなに怒らないで。そうちゃん、ホント短気だね。


 問題ないでしょ。電話と違って、LINEは都合のいい時に読んで返信すればいいんだから。ローランドだって分かってるよ


●その夜

 

 〖朝は軽めに済ませました。ランチは友達と美味しい蕎麦そばを食べました。あと、いろいろな名所を巡り、友達も楽しんでいたようで良かったです〗


 お蕎麦セットと、あとは巡った観光地の写真を何枚か送ってあげよっと。


 【旨い食事だったんだね。景色もとてもキレイだ。この食事は君が作ったの?】


 あああ、そうちゃん。コイツ脳味噌んでんじゃねーの!? とか言わないでよ。


 確かにわたし達なら、お店で出すセットメニューだって一目で分かるけど、ローランドはそこまで分からないんだよ。日本人はみんないつもこういう整然とおぜんに乗った食事をしていると思っているんだって。きっと。


 そんな外国人、今時珍しいけどさ……。


 〖まさか……。さすがにこれは作れません。これは蕎麦屋のセットメニューです。蕎麦打ちのプロが作ったんです〗


 【それは凄い。見事だね。……で、いつ帰るの?】

 

 こいつ、大きなお世話みたいなことを、いつもいつもいちいち訊いて来やがって……!


 もうっ、そうちゃん、こいつとか言わないでよ! ローランドっていうイケてる名前があるんだから。


 ……まあ、友達と遊んでいる相手に、帰宅時間を訊ねるのもちょっと野暮だけど、でも、それだけわたしのことを気にしてくれているんでしょ。


 それに、いいじゃない。もう家に帰ってきたんだし。


 〖たった今帰ってきました。ロングドライブは疲れましたが、友達と楽しい時を過ごすことができました〗


 【良かったね。……で、my love、今日はどんな一日だった??】


 だから! 今言った通りの一日だよ! 画像まで送ってやっただろ! コイツ、マジで脳味噌膿んでんじゃねーの!?


 ちょっと、そうちゃん。そこまでキレなくてもいいから。


 この質問は軽い挨拶みたいなものでしょ。友達と地元観光をしたのは、さすがにローランドだって理解してると思うよ。

 

 ちょっとした感想を聞きたいだけじゃないの?


 〖友達が来てくれて、本当に良かったと思います。と言うのも、おそらく自分一人では、わざわざ地元観光はしないでしょうから。改めて発見などもあり、わたしにとっても有意義な一日だった思います〗


 【素晴らしい。僕が日本に行ったら、君はどんなことをしてくれるのかな??】


 〖うーん……。まだ決めていませんが、特別に素敵なことをできれば、と考えています〗


 そうだよね~。実際に来るとなれば、いろいろ具体的に計画するけど、まだいつ来られるかも分からないし、そこまで明確には決められないよね。


 そもそも、今はまだ海外からの渡航者って、かなり規制されているんじゃないかな。


 なんか切ないな~。ローランドとわたしが会える日は、まだまだ遠そうだね。

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