第2話 

 ●翌日


 そうちゃんそうちゃん、昨夜ゆうべ、ローランドとDMで少しお話してみた!


 〖ありがとうございます、ローランド。あなたがわたしの投稿を気に入ってくださり、とても嬉しいです〗(英語)


 【ありがとうございました。あなたと通信することは喜びです。英語がわかりますか?】(日本語)


 〖ほんの少しですが……〗(←※以下、彩奈あやなさんのメッセージは全て英語です)


 申し訳ないけど、変な日本語だと要領ようりょうないし、逆に英語の方が理解しやすいと思う。

 

 【素晴らしい! 二か国語できるのですね。あなたの名前は何ですか?】(英語)


 って、ローランドに名前かれてさ、どうしようかなって思ったの。やっぱり、面識めんしきのない相手にいきなり実名じつめいを教えるのって、ちょっと抵抗あるでしょ。だから、こう答えたのよ。


 〖わたしの名前はアーヤです。あなたのお写真もどれも凄くきれいな景色ですね。それに一緒に映っている猫ちゃんも可愛いです。ところで、あなたは今ウクライナのどちらでおつとめですか? 危険な場所ですか?〗


 【私は現在、ここウクライナの米国政府と四年間の契約を結んでいます。私は、ウクライナで米国市民の命を救うために懸命に働かなければなりません。私はウクライナの国連医師会の外科医として任命されました。

 

 しかし、正直なところ、ウクライナで米国政府と仕事をするのに数か月しかありません。最近の戦争のため、ウクライナで働くことは非常に危険で大変です。ロシア・ウクライナ戦争は、ロシア(親ロシア派の分離主義勢力ぶんりしゅぎせいりょくとともに)とウクライナの間で進行中の戦争です。

 

 侵略は、第二次世界大戦以来、ヨーロッパで最大の難民危機を引き起こし、630万人以上のウクライナ人が国外に逃亡し、人口の三分の一が避難しました】(日本語)


 え? もっともらしいけどインチキくさい? しかも、質問に答えてないし、第一、ウクライナにアメリカ政府や市民なんかいるのかって? 


 ん~~~……確かにちょっと変だよね。それに、最初に『四年間の契約』って言ってるのに、後から『数ヶ月しかありません』になってるし……。

 

 あっちの翻訳機能がバグったとかじゃない?


 まあいいじゃん。後でもう一回訊いてみるから。


 でもさ、緊迫きんぱくした状況はよく伝わってくるよね。わたし達みたいに平和ボケしている人達にも、この悲惨ひさんさを知ってほしいんだと思うな。


 え? 戦場で働く医者は、そんなにひまじゃないだろうって?


 きっとローランドは超いそがしい激務げきむ合間あいまに、こうやってDMをくれてるんだよ。まさか、あの人気刑事ドラマに出てくる課長みたく、『ヒマか?』なんて訊けないでしょ。


 ●翌日


 とりあえず、こんな感じで送ってみた。


 〖とてもひどい状況ですね。早く戦争が終わることを願います。戦場で働くお医者さんともなれば、ご多忙たぼうでしょうに、こうしてDMをいただけたこと、感謝致します〗


 なかなか悪くないでしょ。


 で、これがローランドの返信。


 【戦地で働くことは決して簡単ではありませんが、私は常に安全確保に最善を尽くしています。ところでアーヤ、過去に外国人と交流を持たれたことはありますか?】


 〖オーストラリアに一年間留学していたことがありますが、もうわたしの頭から、ほとんど英語は消え去ってしまいました。残念ながら……( ノД`)〗


 ホント、言葉って、使っていないとどんどん忘れるよね。漢字なんかもそうだけど。


 まあ、最近じゃ、スーパーに行って、何を買うつもりだったのか忘れたり、冷蔵庫を開けたけど何を取り出そうとしていたのか忘れたり、なんてしょっちゅうだけどね。

 

 ちょっと、そうちゃん、それって子供の頃からじゃねーか、とか言わないで。


 そう言う自分だって、NZに行って三ヶ月で平仮名の書き方忘れたくせに! キャベツとレタスだって見分けが付くようになったの、ここ何年かじゃなかった? あ、あと、小松菜と青梗菜ちんげんさい、ブロッコリーとカリフラワーもだったよね!?


 わたしの物忘れなんてかわいいレベルだわ。


 ……とか言って、わたしもワラビーとカンガルーの区別が付かなかったけど、あれって大きさによって呼び方が違うだけ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る