第109話 109

 天の守りがあるとはいえ、さすがに何度もあの力を喰らう余裕はない。どうするべきか考える。おそらく、兼続を操っている鍵は一花だ。そう考え、琉架は兼続にしがみついている一花を見る。一花自身、そうたいした力が有るわけではない。やっかいなのは必至に一花を守護しようとする猫形をした高位精霊のみだ。


 直接、一花を狙った場合の障害になる。ならばフェイクを入れるべきかと、次はクリスへと視線を移した。互いに天に属する力を使う以上、効力も影響もない。だが、クリスを狙った場合、兼続が反応する時間を与えてしまう。操られている所為で本来よりも対応が鈍いとはいえ、対応するのに十分な時間を与えてしまうことになる。


 互いの力が無効になるのなら、クリスは捨て置き直接一花を狙うか兼続にするか、琉架は判断に迫られる。


 一呼吸を置いた後、琉架は切っ先を一花へと向けた。確実なのは術者を消すことだ。そう判断したのである。


「Domine, exaudi orationem meam」


 琉架の口から祓魔の祈りが漏れる。


「et clamor meus ad te veniat」


 それに応えるかのように、琉架の手の中の両手剣は光に包まれた。


「Dominus vobiscum」


 祈りが終わると同時に、琉架は一花へ向かって駆け出す。両手剣はその性質上、長さや重さが妨げとなり、素早く細かい動きは出来ないものである。基本は、敵をなぎ倒し叩き潰すに近い武器である。だが、琉架の手の中にある物は、重さも何も感じさせずに軽々と振り上げられ素早く打ち下ろされようとした。


 自身に危機が迫っているのは理解出来たが、兼続の身体から何か違和感を感じ、一花は一瞬の判断を送らせる。クリスの守りが展開されたが、それは必然だとでも言わんばかりに何の効力も持たなかった。


「ecce Crucem Domini, fugite, partes adversae」


 突然、聞こえてきた声と共に兼続の身体が倒れ込み、しがみついていた一花の身体もその行動を共にする。琉架の振り下ろした切っ先は僅かに一花の髪を散らしただけで、空を切った。


 何が起こったのか、それを確認するために琉架とクリスは同時に視線を声がした方へと向ける。そこには、携帯電話を片手に立ち尽くす紫苑の姿があった。


「浅井神父?」


 なぜここに居るのか理解出来ないと言わんばかりの声音と表情を、琉架は紫苑に向けた。

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