第3話 3
「じゃあ……、私はかーくんって呼んでもいい?」
楽しそうな表情の一花とは裏腹に、兼続はガックリと肩を落とし表情も沈む。
「それは勘弁して……」
兼続の答えに、一花は残念そうな視線と表情を向けた。
「兼続くんって言い難いんだよね」
そう呟きながら、一花はねだるような視線で兼続を見上げる。
「そんな事より委員長、なんか用とか?」
名前から話題を反らすために、兼続は一花に対する疑問を口にした。それに対し、一花は少しふくれた顔をする。きれいな顔立ちに可愛さが加わり、僅かに高鳴る鼓動を押さえ込むかのように、兼続は軽く視線を反らした。
「さっきも、庭の処にいただろ?」
思わず見蕩れそうになった事を隠すかのように、兼続は続けて質問を投げかける。
「そういえば、お庭きれいよね」
兼続の質問に答えることなく、一花は庭の方へと視線を向けた。あまり捉えどころのないの無い一花の言動に諦めを覚えたのか、兼続は無言で庭へ向かって歩き出した。一花はすぐにその後に続く。
「ねえ。かーくんも神父さんなの?」
「へ?」
唐突にかけられた言葉に、兼続は思わず立ち止まってしまった。
「いや……。っていうか、かーくんはやめてくれ……」
「一花って呼んでくれたらね」
足を止めることなく庭へと向かいながら、一花が答えた。返答に困った兼続は、その後を追うように足を踏み出す。
高校に入学してから約二ヶ月、目の前に居る一花と接触する機会は特に無かった。兼続の記憶にある限り、まともに話をしたのは今日が初めてになる。
庭に足を踏み入れた途端、白い毛並み、黒い毛並みの二匹の大型犬が、兼続に向かって嬉しそうに駆け寄ってきた。
「シロ、クロ」
名前を呼ばれた二匹は、更に千切れんばかりに尾を振りまくりながら、勢いよく兼続に飛びついた。
「うわっ!」
二匹の大型犬の体重とスピードが乗った体当たりに、兼続は耐えきれずにその場に倒れ込んでしまう。そのまま、二匹の犬たちは兼続の顔を舐め始めた。兼続は二匹を引きはがしながら、一花の姿を探した。少し離れた場所にその姿を見つけ、近寄ろうと足を踏み出す。そのとたん、二匹の犬たちが兼続の前に立ちはだかり、低い唸り声を上げ始めた。
「シロ? クロ?」
外見とは裏腹に、普段は番犬にならないほどの人懐っこい犬たちである。初めて見る二匹の様子に、兼続は少し戸惑う。
「やめろ!」
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