第48話 48

 無駄だとは理解しつつも、抵抗を試みる。


「そうか。では、交渉は決裂ということで、コレは俺の好きにさせて貰おうか」


 想定の内と言わんばかりに、琉架は石を握り締めた手を少し掲げる。


「待って!」


 一花は悲痛な声と表情で、琉架に懇願をした。


「お願い……。少し考えさせて……」


 今の状況を招いたのは自らの過信によるものだという事を、嫌というほど思い知らされた。使い魔を石に封じ、それを兼続の制服に忍ばせた。あの時点では、琉架に対してそれが有利である事を確信していたのだ。


「これで封じ込めたつもりだったとは……」


 呆れた表情と声音で、呟くようにそう言った。教会へ戻ると、帰宅した兼続と出くわした。手には買い物の袋を下げ機嫌が良さそうに見えた。だが、なにか違和感を感じ、その正体を探す。すぐに、制服のポケットから気配を感じた。中を確認して貰うと、ガラス玉のようなものが出てきた。それはすぐに一花の使い魔だと分かる。兼続は自分のものではないと言い、扱いに困っていたので預かることにしたのだ。


 一花は、ジッと琉架の手の中にある封印のガラス玉を見つめる。特に何の力も持たない普通の少女である。魔術理論を学び、初級程度の魔術は使えるが、それだけであった。能力では、目の前の相手には敵わない。そのために策を弄したが、それが裏目に出てしまった。


「知りたいことは、浅井兼続とAurea mediocritasの関係でいいのね?」


 観念したように、一花が琉架の要求を確認する。一花は、震える手で制服のスカートを握りしまえる。どちらを選んでも同じような結果になるのなら、すこしでもマシな方をと考えた結果である。




 一花は力なくその場に座り込むと、手元に戻ってきたガラス玉を胸元で握り締めた。琉架は約束を守り、総てを話した後に石を返したのだ。


「ごめんなさい……」


 握り締めたガラス玉に封じた存在に向かい、小さな声で謝罪を述べた。


 結果的に結社を裏切る事になってしまった今、自身の身の振り方を考えねばならず途方に暮れる。とりあえず、思い付いたことはただ一つで、琉架の手に落ちるよりも先に、兼続の身柄を確保することであった。


 力なく立ち上がり、兼続の元へと向かって歩き出す。


 ガラス玉を握り締めたその手に力がこもった。コレは、一花のルーツを証明する唯一の存在である。

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