第34話 34
一花は、手を繋いだ相手を見上げた。それに気が付いたのか、見上げている相手はしゃがみ込み、一花に視線を合わせ何かを話しかけてくるが、よく聞き取れない。相手の顔もぼやけハッキリと見えないが、誰なのかはハッキリと分かる。
再び相手が立ち上がり、一花の手を引いて歩き出した。歩く速度が徐々に速くなり、一花の足では付いていくのが難しくなっていく。いつの間にか繋いだ手が離れ、二人の距離が開いていくが少しでもそれを縮めようと一花は必死に走り出した。だが、距離は縮まることはなく開いていく一方であった。
泣きながら去っていく人物を呼ぶが、立ち止まる気配も無い。呼び止めようとするが声が出てはこなかった。手を伸ばし、もう一度呼ぼうとした瞬間、いきなり景色が変わった。
見知らぬ天井に向かって伸ばしている手が視界に入り、一花は自分が置かれている状況を理解出来ずにそのままの姿でしばし固まった。
少し落ち着きを取り戻し、伸ばした手を下ろすと辺りに視線を向ける。すぐに、部屋の隅でうずくまりながら眠っている兼続の姿を確認した。こっそりと様子を見に来た紫苑が掛けた毛布にくるまり、兼続は幸せそうな寝顔していた。そのすぐ傍らには、同じように幸せそうな様子で眠っている二匹の犬の姿もある。
一花はゆっくりと上半身を起こし、ベッドの上に座り込んだ。昨夜、意識を失った後の詳細は分からないが、最悪の状態にはなっていないようだと一花は推測する。
ゆっくりとベッドから足を下ろし、床に着くと立ち上がる。そのまま兼続の傍へと向かった。近づいて来る一花の気配に気が付き、二匹の犬たちは目を覚まし何かを確認するかのように耳を動かした。すぐに、顔を上げ一花を見る。
人差し指を自身の唇にに押しつけ、犬たちが騒がないようにと示す。それを理解したのか、犬たちはまた顔を下げ、また目を閉じた。
一花は兼続を見つめた。日に透けるアッシュブラウンの髪に、同じ色の長い睫。少し彫りの深い整った顔立ちは、改めて見ると良質の物である。
何か気配を感じたのか、兼続の目がうっすらと開いた。そのままゆっくりと瞬きをする。見慣れぬ人物が目の前におり、驚きで兼続の意識が一気に覚醒する。
「おはよー」
聞き慣れた一花の声が、朝の挨拶を述べた。
「おはよ」
反射的に、兼続も朝の挨拶を口にした。そして、目の前の人物がメガネの無い一花だと気が付いた。
「あ、そうだ。大丈夫?」
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