第37話 37

 午後の日差しを窓越しに受け、琉架はテーブルの上にあるデミタスカップを手にした。窓の外には道を行き交う人々で溢れている。神父が喫茶店に居ることが珍しいのか、行き交う人々の足が琉架の前を通り過ぎる時だけ速度が落ちる。そのため、向かいにある校門が人混みに隠れることもあり、琉架は軽くため息を吐く。


「Cattivo!」


 口にしたデミタスカップの中のエスプレッソを一口含んだ途端、すぐにカップをテーブルに戻し、呟くように小さくそう言った。


 そろそろ時間だと向かいにある校門の出入りを確認しようと視線を窓の外に移す。特に動きは見られないが、すでに放課後であることから生徒達が出てくるのも時間の問題であった。


 注意深く校門へ視線を送っていると、携帯が着信を告げた。煩わしそうに琉架は携帯を取り出し、相手を確認する。それは、嫌にならないのかと思うほど毎日連絡を寄越してくる報告相手であり、琉架はこのまま無視をしたい衝動に駆られた。毎日、同じ報告内容を繰り返すのだから、一日ぐらい放置でも構わないだろうと、ついぞ考えてしまう。だがそうもいかず、琉架は嫌々な態度で通話ボタンを押す。


「Pronto?」


 すぐに通話相手の声が聞こえてきたが、琉架は答えない。


「Pronto?」


 代わりに、先ほどと同じ言葉を繰り返した。


「Scusi, non La sento bene……」


 そう言い、琉架は電波状況が悪いという状態を装い通話を勝手に終えた。そして、すぐに携帯の電源そのものを落としてしまう。そのまま携帯をしまい込み、ポツポツと生徒が現れ始めた校門に意識を集中する。


 目的の人物は校門から出てくる多数の生徒たちに埋もれてはいるが、容易に見分けることが出来た。身に纏う闇が、嫌でも存在を誇示していたのだ。琉架は立ち上がると出口へと向かう。


 会計を済ませて外へ出ると、少し離れて対象者の後を追う。すぐに、相手が一人ではない事に気が付くが、それも想定の範囲内であるために構わず行動を続ける。


 少しずつ人通りが少なくなるが、琉架は距離を保ち慎重に対象者の後を追う。住宅街を通り、対象者とその同行者が一軒の家の前で足を止めた。しばし会話を楽しんだ後、同行者は軽く手を振り対象者に別れの挨拶をした。それを確認した琉架は、身を隠す。


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