第8話 8

 口を開いたは良いが、やはりどう切り出して良いのか分からず、兼続はそのまま口を噤んでしまった。一花の箸が止まり、先ほどまでよりも思い沈黙が兼続を支配する。何か言葉を口にするべきなのだと思いつつも、兼続の鼓動は早鐘を打ち乾いた喉からは声が出てこなかった。


「好きって言ったこと?」


 特に気を張った様子も無く一花が聞き返した。


「あー、うん。そう」


 何故か、兼続の方が気まずそうに答える。


「そのままの意味だけど……」


 少し哀しそうな表情で俯きながら、一花はそう呟くように言った。


「そのままって……。えっと、その……」


 今まで女子から好意を寄せられたことなど無く、兼続の思考は混乱した。


「友達としてとか……?」


 そう口にした途端の一花の表情を見て、兼続は自信の言葉が間違えていた事に気が付く。


「えっと……、その……。ごめん……」


 間違いに対して謝罪をした兼続の言葉に、一花は哀しそうに視線を伏せる。


「……そっか……。ごめんね……」


 視線と同時に顔を伏せた一花の様子と言葉に、兼続はその意味を理解出来ずに固まってしまう。しばし後、先ほど口にした謝罪が告白を断るものだと判断されたのだと気が付いた。


「あ、違う。ごめん」


「違う……?」


 兼続の言葉に、一花は顔を上げ視線を向けた。


「……女の子にそんなこと言われたことなくて……。だから、よく分かんなくて……」


 兼続の体温が急激に上昇し、心臓も驚くほどの勢いで早鐘を打つ。今まで、特に女子を意識したことはなく、初めての感覚に兼続は戸惑う。


「嘘……」


 驚いた表情を浮かべ、一花は兼続を見つめた。


「嘘?」


 一花の言葉が理解出来なくて、兼続は反射的に疑問を口にした。


「浅井くん、女子の間で凄い人気なんだけど……?」


「え?」


 一花の言葉に、兼続の口からは無意識に疑問が零れた。更に、その言葉の意味を理解するのに五秒ほど要し、兼続は軽く口を開けたままの間抜けな表情で一花を見つめた。


「えぇーっ! 何で!?」


 素直な疑問が兼続の口を付いて出る。今まで、女子からはあからさまに避けられるばかりで、そのような話など聞いたこともなかったのだ。


「何でって、カッコイイし可愛いし……」


 一花の答えに、それは何か相反していないかと兼続は思う。


「俺、カッコイイの?」


 幼い頃は『ガイジン』と陰で呼ばれ、この容姿は嫌悪を与えるもので、今でも遠巻きに見つめる女子の視線は、その頃と変わらない物だと思っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る