第7話 7

 窓の外へと視線を向けながら一花が尋ねた。昼食は弁当なので、どこで食べても良いかと思い、兼続は頷き答えた。兼続の様子に一花は更に嬉しそうな笑みを浮かべ、教室の外へと向かう。兼続は机の中から弁当を取りだし、その後を追った。互いに黙ったまま廊下を歩くのは少し気まずいと兼続は思ったが、だからと言って何か言葉を口にするのもはばかられた。


 昨日、一花が残した『好き』というのはどういう意味なのかを兼続は考えていた。ただのクラスメートとしてなのか、友人としてなのか、異性としてだとは思い難く判断に悩んでいたのだ。周りとは多少異なる容姿のせいで、物心が付いた時から女子にはあからさまに避けられていたのだ。


 中庭へと辿り着くとすでに弁当を広げている生徒達が数人おり、兼続達もそれに混ざるように空いた芝生の上へと腰を降ろした。


「浅井くんの名前って面白いよね」


 別当を広げながら、唐突に一花がそう言った。


「そう?」


 兼続自身、自分の容姿には似合わない名前だとは思っている。今時の名前として使用される物でも無いというのも理解しているが、面白いと思ったことは一度もなかった。


「名字が浅井なら、名前は長政とかじゃないの?」


 一花の問いを聞き、そういう意味の面白いなのかと兼続は納得した。


「父さんが、日本男児みたいな名前にしたかったっていうのと、海外育ちで侍とかそんなのに憧れて気に入ったのを付けたとか言ってた」


「浅井くん、帰国子女なの?」


 弁当に箸を付けようとした手を止め、一花は視線を兼続へと向けた。


「いや。俺は日本生まれの日本育ち」


 そう答えると兼続は、箸で掴んだ卵焼きを口へと運んだ。毎朝、父親が作ってくれる弁当は、今日も文句の付け所がない見た目と味である。


 すぐに会話が途切れ、兼続と一花は少し居心地の悪い沈黙の中で弁当を食べ続けた。何か話を切り出してくるのではと思い、兼続は箸で置かずを口に運びながら横目で一花を確認した。だがそのような様子は見受けられず、楽しそうに一花は弁当に箸を付けている。


「あの……さ……」


 このまま黙って弁当を食べ続けてもと思い、兼続は重い口を開く。


「昨日の事なんだけど……」


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