第77話 77

 その言葉に、兼続はハッとして顔を上げた。


「この十五年間は、嘘だったのですか?」


 琉架の問いに、兼続は考え込んだ。そして、幼い頃からの記憶を漁る。確かに、本当の父親と思ってきた。不自由なく育てて貰った。普段は優しいが、兼続がなにか悪さをした時はとても厳しかった。少しずつ、目頭と胸が熱くなっていく。


「別に、血の繋がりだけが親子だとは思いません」


 そう言いながらも、同じような年月を育てて貰い、捨てられた者もいるのだと考えてしまう。目の前の少年とどこが違うのかと考えずにはいられなかった。


「はい……」


 静かに兼続が答えた。


「突然のことで、今すぐに問題が解決するわけではありませんが、浅井神父のことは信じても大丈夫ですよ」


「はい……ありがとうございます」


 少しだけ、心が軽くなったような気がした。


 父親のことは、すぐに解決という訳にはいかないだろうが、まだ兼続には謎があった。それらは、目の前にいる琉架が知っていると思われるが、聞いてもよいのか迷っていた。


「まだなにか不安がありますか?」


 ジッと見つめてくる様子に、静かに問いかけた。


「あ……今朝の人の事とか……?」


 その言葉に、琉架の表情がわずかに変化する。


「琉架さんは知ってる人?」


「いえ、知りません」


 答えを聞き、少し残念そうな顔をする。


「そうなんだ……」


 謎は謎のままなのかと兼続は落ち込んだ。


あの時、紫苑も知らないと言っていたし、謎の男もそれを認めていた。だが、あの男は自分たちのことを知っているようだった。紫苑や琉架はともかく、なぜ自分がと不思議でならない。ただの平凡な高校生で、特にこれと言ってなにかあるわけでもない。誘拐にしても、小さな教会でこれと言って資産があるわけでもない。


「どうしましたか?」


急に考え込んだ兼続に、琉架が声をかけた。


「え? あ、今朝の人が気になって……」


 兼続の答えに、琉架が黙る。なにかを詮索されるとまずいというのもあったが、あまり答えられることでも無かったからだ。


「えっと……」


 更に兼続は考え込んだ。


「なんて言ってたっけ……」


 必死に思い出そうとするが、あの時は余裕が無かったため、あまり覚えてはいなかったのだ。その様子を見ていた琉架は、兼続の呟きに興味を持った。


「なにがですか?」


「今朝の人、名乗ってたんだけど、思い出せなくて……」


 その答えに、琉架の表情が大きく変わる。


「なんて? なんて名乗っていたのですか?」

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