第30話 30
力なく立ち上がった一花は、紫苑めがけてふらつく身体を何とか制しゆっくりと足を踏み出した。震える手を伸ばし、紫苑の服に指が触れた途端、一花は必死で縋り付く。
「Help……. Help me please,Father……. I am not Devils……」
紫苑にしがみつき、一花は力なく何度も同じ言葉を繰り返す。
「Behold, I am with you, and will keep you, wherever you go, and will bring you again into this land. For I will not leave you, until I have done that which I have spoken of to you(見よ。私はあなたと共にあり、あなたがどこへ行こうともあなたを守り、あなたをこの地に連れ帰るであろう。私は決してあなたを捨てず、あなたに語った事を行うであろう)」
一花の言葉に答えるように、紫苑が優しく穏やかな声音で旧約聖書の一文を口にした。
「Yes,Father……」
紫苑の言葉に徐々に落ち着きを取り戻した一花は、緊張と恐怖が途切れた途端、意識を深い闇の底へと手放した。
「兼続」
呆然と立ち尽くしていた兼続は、紫苑の声で我に返り慌てて駆けだした。
「聖神父と話があるので、イチカちゃんを客間で休ませてください」
意識のない一花の身体を受け取り抱きかかえた兼続は、普段とは違う様子と口調の紫苑を見つめた。紫苑は琉架から視線を動かそうとはせず、兼続が立ち去るのを待つ。とても声をかけられるような雰囲気ではなく、兼続は無言でその場から立ち去ることを選ぶ。
「シロ、クロ」
二匹の犬を呼び、兼続は家の中へと戻る。
兼続が去るのを確認した紫苑は、琉架へと視線を移した。小野路用に、琉架も紫苑に視線を返す。
「説明をして頂けますか?」
紫苑の問いに、琉架は軽くため息を吐く。
「説明が欲しいのは私の方です。あの少女は一目で悪魔憑きだと分かったはずです。なぜ放置なさっていたのでしょうか?」
質問に質問で返し、琉架は紫苑の返事を待つ。
「彼女は、悪魔憑きではありません」
紫苑はまっすぐに琉架を見据え、ハッキリとそう断言した。
「確かにあれは高位精霊の一種で、厳密には悪魔とは呼べないかもしれませんが、主の御心に添う存在ではありません」
他の神を認める紫苑の発言に、琉架はゆっくりと足を踏み出した。
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