第14話 14
心配そうな視線を向けた一花が視界に入り、近づこうとした兼続を止めるかのように、二匹の犬たちはうなり声を上げる。
「お前達、何なんだよ」
一花に警戒を向ける犬たちを落ち着かせ、その場に止まらせると兼続は足を踏み出した。
「ごめん……。あいつら、うるさかった?」
兼続の言葉に、一花は首を横に振って答える。
「浅井くんが出て行った後、ずっとドアの前でおとなしく座っていたから大丈夫よ」
それを聞き、兼続は胸を撫で下ろす。
帰宅すると玄関の鍵が開いており、また父親の不注意だろうと想ったが、今日は一花と一緒のために用心をする事にした。安全を確認したリビングに一花を待たせ、番犬として二匹を置いていった。一通り確認をしている最中、礼拝堂で琉架を見つけた。
「あ」
琉架を放置していたことを思い出し、兼続は慌てて廊下へと向かう。その後を、嬉しそうに二匹の犬が追いかけた。
「すみません」
リビングの前で佇む琉架に、兼続は声をかけた。すぐに追いついた犬たちは、琉架の存在を確認した途端、後ろに耳を寝かせ豊かな毛で覆われた尾を下げ震えだした。
「いえ」
琉架が答え、兼続に向かって足を踏み出すと犬たちは逃げ込むようにリビングの中へと消えていった。犬たちの様子に気が付き、兼続は不思議そうに小首を傾げた。だが、一花の時のように威嚇するわけでもなく、兼続はすぐに気を取り直して琉架をリビングへと案内する。
「カネツグさん」
丁寧に継承を付けて呼ばれ、兼続は足を止めて振り向いた。
「あの、兼続でいいです」
年上の相手に丁寧に名を呼ばれることがこそばゆい感じがして、兼続はそう告げた。
「では、カネツグくんと呼ばせて頂きます。漢字はどのような字ですか?」
一花と向かい合わせに置かれたソファーに案内された琉架は、ゆっくりと腰を降ろしながら尋ねてきた。
「武将の直江兼続と同じです」
何とも説明しやすい名前だと、それだけは父親に感謝していた。
「分かりました」
琉架の返事を聞きながら、兼続はリビングの隅に小さく身を隠すようにしている二匹を見つけ、そちらへと向かった。一花といい、琉架といい、今までどのような相手でも人懐っこかった犬たちの初めての反応に、兼続は首を傾げる。とりあえずこのまま考えていても埒が明かず、犬たちに声をかけリビングの外まで連れて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます