限界ラオタ、調味料を探す


「調味料……って。ジローさんはお貴族様かなにかなんですか?」


 試しに「調味料とかあります?」って聞いてみたら、キキョウさんにあきれた顔をされた。


 口にはしないけど、表情から「なにをバカなことを言ってるんですか?」みたいなニュアンスをヒシヒシと感じる。


「……いえ、……何でもないです。はい」


 俺は空気を読んで静かに引き下がった。

 でも……あるにはあるんだな、調味料。


「街にお店ならありますよ。明日、行ってみたらいいんじゃないですか?」


 ほお。良いことを聞いた。

 調味料が売っているお店か。面白そうだ。

 街まで片道1時間以上かかるけど、散歩がてら行ってみよう。冒険者登録もしたいし。


 そこまで考えて、俺は勇気を出してキキョウさんを誘うことにした。


 村を救った英雄の頼み、断りにくかろうて。

 いざ、デートだっ! ぐへへへへへへ。


「あの、キキョウさん。良かったらお店まで案内して――」


 あれ?

 いないじゃん。

 強振空振りしたよ。


 キキョウさん、どこに行っちゃったの?

 と思ったら、なにやら紙のようなものを持って戻ってきた。


「はい。これお店までの地図です。私はジローさんの家を掃除しないといけないので。あのままじゃ補修も出来ませんから」


 なるほどね。

 そう言われちゃ仕方ない。

 俺のために家を掃除してくれるなんて、嬉しい話じゃないですか。



 初デートはまた誘えばいいんです。


 いかん。雨が降ってきたな。


 泣いてない。泣いてないってば。

 ちょっと上を向きたくなっただけだもん。


 俺は星を数えながら馬小屋へと向かった。

 小屋に入ると友が「ヒヒィィーン」といなないて慰めてくれた。



   §   §   §   §   §



 お店のケースにはコショウらしき木の実、ビネガーに似た液体、蜂蜜が入っていそうな瓶などが大切そうに並べられていた。


 値札をチェックすると、途中で立ち寄った市場の野菜や干し肉とはケタが2つも3つも違う。


 そりゃあ、『お貴族様かなにかなんですか?』って言いたくもなるわな。


「どうしてこんなに高いんですか?」


 店主らしき男に尋ねると、あからさまに迷惑そうな顔をされた。


「なんだ、兄ちゃん。田舎から出てきたのか? どれも貴重品だからに決まってるだろ」


 せやな。

 こっちは、なんで貴重なのか聞きたいんだよ。

 考えられるのはやはり……遠方から仕入れているパターンか。


「この辺じゃ採れないってことですか?」

「……兄ちゃん、本当になにも知らないんだな」


 俺を見る視線に憐れみを感じる。

 残念な子を見るときの、あの目だ。


「採れるけど、採るのが難しいんだよ。たとえばコレな」


 そう言うと店主は、コショウらしき木の実を指差した。


「『ペッパートレント』ってモンスターから採れるんだが、討伐難易度はBクラスだ」


 木から採れるんじゃなくて、植物タイプのモンスターから採れるのか。


「こっちの酸味が強い液体は『グレイプデビル』のメスから採れる。オスはダメだ。こっちの討伐難易度はCクラスだが、ちょっとしたレアモンスターだ」


 お酢が採れるのはメス。ふぅん。

 グレイプってことはワインビネガーなのかな。


 そのあとも、こっちは、あっちは、とそれぞれ説明してくれた。


 なんだよ。この店主、めっちゃいいヤツじゃん。


 討伐難易度の基準はよくわからなかったけど、たぶん倒すのが大変なんだろう。だからお値段が高い。


「じゃあ、ここにあるものは全部、このあたりで採れるってことですか?」

「ん? まあ、そうだな。銀級シルバークラス……いや金級ゴールドクラスの冒険者なら全部採ってくることも出来るんじゃねぇかな」


 次は銀級とか金級とか言い出したよ。

 たぶんスゴい冒険者ってことなんだろうけど、どれくらいスゴいのかわからない。

 誰か俺に教えてくれぇぃ。


 でも、ここで訊くのは違うな。スレチ――掲示板のスレッドが違うこと、旧世代のネットスラング――だわ。


「なるほどですね。色々教えてくれて、ありがとうございます!」

「お礼はいいから、なんか買っていきな」

「いやあ、いま手持ちがなくって。レアな調味料が手に入ったら、必ずココに直接売りに来ますから!」

「お前が? 調味料を? ハッハッハッハ、おもしれぇ。未来の金級冒険者様ってわけか。まあ、期待しねぇで待ってるぜ」


 店主が爆笑しているあいだに俺は店を出た。


 調味料は手に入らなかったけど、いい情報はたくさん手に入った。


 この世界、調味料はモンスターから採れる。

 店では確認出来なかったが、醤油、みりん、味噌だって似たようなものが見つかるかもしれない。


 モンスターを倒して食材を集めれば、いつかはラーメンだって作れるはずだ。


 そうだ。この世界に存在しないなら、俺が作ってしまえばいいんだ。 


 俺がこの世界にラーメンを広めてやる。

 俺がラーメンだ!




 俺は再び、冒険者ギルドを訪れた。

 カウンターには、昨日と同じ受付のお姉さん。


 やあ、待たせたな。もう昨日までの俺とは違う。

 なぜなら、俺にはすでに住所がある!

 それも宿ではなく、下宿でもなく、借家ですらなく、俺の持ち家なのだ……ッ!


 まだ補修前のボロ家だけど、俺の家には違いない。



「申し訳ありませんが、現状ですと冒険者登録はご利用いただけません」


 またしても眩しい笑顔で断られた。


 なぜだ。

 どうしてだ。




 🍜Next Ramen's HINT !!

 『アイテムボックス』

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