限界ラオタ、ディナーに誘われる


 俺の手は血に染まった。

 必殺のスキル『カラメマシマシ』で強化された拳は、世紀末ザコ系昭和ヤンキーコンビの四肢を爆散させ――。


 などというバイオレンスアクション展開ではないので安心してほしい。



 あの手のクソは自分より弱そうな相手には粋がるけど、相手が格上だとわかったら熱い手のひら返しをかましてくるタイプのクソだ。直接殴るまでもない。


 なんでそんなことがわかるのかって?

 前にYoutubeでそんなんやってるの見たから。

 オタクの格好した格闘家が、タバコのポイ捨てを注意するやつ。



 だから、スキルで強化した拳で地面をドカーーーーッン!


 ……ってやったら、足元はすっかりクレーター。

 多少、石とか土塊が弾けて彼らにぶつかったかもしれないけど、それくらいなら許容範囲でしょ。


 映画化しても、映倫の区分はきっと全年齢だよ。


「な、なんだコイツ!?」

「バ、バケモノだあぁぁぁ!」


 これが捨て台詞。

 ね? ピンピンしてるでしょ?


 それにしても、バケモノって……。


 あ、そっか。

 この世界では『バケモノ』っていうのは強さを称える褒め言葉だったな。

 そうだった。そうだった。


 そういうわけで、昭和のヤンキーズは脱兎の如く逃げていきましたとさ。

 めでたし。めでたし。


 パチパチパチパチパチパチパチパチ。



 ん?

 この拍手は俺じゃないぞ。


「素晴らしい! 相変わらず人とは思えないパワーだ。しかも敵に情けまでかける寛大さ! 感服した!!」


 聞き覚えのある涼やかな声。


「なんでここに?」

「たまたま散歩していただけだ」

「超有名パーティーのリーダーで金級のフルルさんが、たまたまこんなところをひとりで散歩……なんで?」

「街をぶらぶらしていたら、たまたまギルドで君を見かけて、たまたま同じ方向に散歩してみたら、たまたま君が襲われているところに出くわしたってわけだ」


 ギルドで感じた視線の正体はお前か。

 金級は気配消すのも一流なんだな。


 あと、襲われたのはお前のせいだから。言わないけど。


「それを『たまたま』と言うのなら、世の中で起こるほとんどのことは『たまたま』ですよ」

「そうとも! 世に起こる全てのことは神がもたらす『たまたま』の賜物なのだよ」

「あ、宗教の話そういうのはいいっす」


 政治と宗教と野球の話はするな、ってのが死んだばあさんの遺言だから。

 あと『たまたまの賜物たまもの』には死んでも突っ込まないから。


「それで、君はなにをしているんだい?」

「ここはネギですね」

「ネギ?」

「次はショウガです」

「ショウガ?」

「そのあとニンニクで終わりです」

「ニンニク?」


 フルルが「ちんぷんかんぷん」という顔をしているから、噛みくだいて説明してやった。


「なるほど! つまり、ジンジャッカルとニンニクンを狩れば今日の仕事は終わりということだな?」

「あー、まあ、そうですね」

「よし! そうと決まれば早く行こうじゃないか」

「……え? ついてくるんですか?」

「ダメか?」

「ダメ……ではないですけど……」


 金級の冒険者が、わざわざザコモンスター狩りに付き合う理由がわからない。裏がありそうでシンプルに怖い。


 でも言いづらい。


「では、なにも問題はないな。さあ、行こう!」

「……行きます」


 そういうことになった。



 このあと滅茶苦茶ハントした。


 ──────────────────

 アイテムボックスⅠ  10/50

  ・プチオーク(解体前):78

  ・コカトリス(ブロック):20

  ・カモネギソルジャー(解体前):10

  ・カモネギソルジャーの水かき:10

  ・ネギソード:10

  ・ジンジャッカル(解体前):52

  ・ジンジャッカルの牙:26

  ・犬生姜:30

  ・ニンニクン(解体前):42

  ・ニンニクンの薄皮:21

 ──────────────────


 ジンジャッカルは犬系モンスター。

 討伐指定部位は牙、お目当ての犬生姜はオスにだけ生えていた。


 どこに、って……言わせんなよ。

 オスにだけ生えてるってんだから察しろ。


 犬を食べる趣味は無いから、牙と犬生姜を手に入れれば残りは要らない……んだけど、ワンチャン売れるかもしれないから持ってくことにした。


 日本でも昔は犬を食べていたって聞くし。

 ワンチャンあるからね。ワンちゃん。


 

 ニンニクンは討伐指定部位の薄皮を剥いで手足をもいだら、残りはまるごと食材になる。

 ちなみにサイズは小さめで大体こぶし大くらい。


「本当に要らないんですか?」

「うむ。私は指定討伐部位だけで十分だ」


 指定討伐部位は半分ずつ。

 ほかは全部、俺に譲ってくれるそうだ。


「売ればお金になりますよ?」

「別にお金に困ってはいないな」


 くううぅぅぅぅ!

 一度は言ってみたいセリフだ。


「その代わり……」

「そ、その代わり?」

「約束を果たしてもらいたい」

「や、やくそく?」


 なんだっけ?

 なんか約束とかしたっけ?


「君も楽しみにしていると言っていたじゃないか」

「たのしみ…………あっ!」


 そうだ!

 思い出した!!


『次は食事にでも行こうじゃないか』

『ははっ。楽しみにしてますよ』


 こんな話してた!

 しかも昨日!!


 早くあの場から逃げたくて、適当に返事したやつだ。忘れてた。


 でもあんなの社交辞令じゃん。

 次の日に実行に移すとかあんの?


 あんのかー。

 でもなぁ。まだ外食にお金を使うのはキツいなぁ。もっと調理用具とか買いたいんだよなぁ。


「食事、ですか」

「うむ。オススメの美味い飯屋があるんだ」

「良いですね。でも今日はざんね――」

「もちろん私のオゴリだ」

「どこまでも付いていきます!」

「そうか! では行こう!」

「行きます!!」


 そうゆうことになったのであった。




 街に戻った俺たちは、まずギルドに討伐部位を提出した。


「またこんなに!?」


 受付さん1号のスマイル0円が引きつっている。

 いつものように受付さん2号と奥へ引っ込むと、いつもの布袋と一緒に銀色のプレートを持って戻ってきた。


「ギルドの規定により錫級ティンクラスへの昇級が決まりました。こちらが新しい認識票です」


 またクラスが上がった。

 ちょっと狩りすぎた。こんなに狩るつもりは無かったのに。


 




 🍜Next Ramen's HINT !!

 『究極のラーメン』

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