限界ラオタ、襲われる


水辺ここのはずだよなぁ……あ、いた」


 水辺をペタペタと歩くモンスター。


 身長は俺の半分くらい。

 その両足には大きな水かき。

 頭には鍋のようなものをかぶり、黄色い大きなクチバシが飛び出している。

 背中にはナナメに背負った大きなネギ。

 小さな身体に見合わない立派なネギは、さながら大剣のようじゃあないか。


 六匹並んで行進しているけど、カルガモの親子みたいな可愛さは全くない。

 モンスターのくせに統制が取れていて、軍隊の行進にしか見えない。きもっ。

 

 こいつこそが水棲の鳥系モンスター『カモネギソルジャー』、討伐難易度はD(アイアンティン)と書いてあったから腕試しに丁度いい。


「アブラマシマシカラメ!」


 バリアはいつもマシマシ。でも攻撃はカラメから試してみよう。


 俺は足元から手頃な石を拾って、行列の最後尾にいるカモネギソルジャーに投げつけた。


「「GUWAAAAAA!」」


 けたたましい悲鳴が重なる。

 石は最後尾のカモネギソルジャーの背中にクリーンヒット。

 そのまま身体を貫通して、次のカモネギソルジャーの身体に深々と突き刺さる。


 二匹はそのまま地面に倒れて動かなくなった。


「お……おぅ」


 思ったより威力が大きかったな……いや敵が弱すぎたのか。

 

「「「「GYAVWAAAAA!!」」」」


 仲間を失い、残りの四匹が臨戦体勢になる。

 背中からスラリとネギを抜くと中段に構えた。


「GYAWAAAAAAA!」


 カモネギソルジャーが飛びかかってくる。

 しかし、そのネギはアブラに阻まれ届かない。


 体勢を崩したところを狙って、俺はすかさずカモネギソルジャーを掌で


 殴ったらまた弾けてしまうかもしれない。

 討伐指定部位――コイツは水かき――を木っ端微塵にしてしまったらもったいないし、ネギが吹っ飛んだりしたら最悪だ。


 なるべく優しく、と考えた結果がこの『掌底』である。


 カモネギソルジャーは地面と水平にふっ飛び、木にぶつかって動かなくなった。


 スプラッタホラーにはなっていないようだ。


 さあ、残り三匹。


「GYUWAVAAAA!」


 あっ、逃げた。


 プチオークもそうだったけど、こういうところはやっぱゲームとは違うよな。


 モンスターも生物。

 奴らも生き残ることが最優先。


 もちろん追っかけ回して締め上げた。

 そのまま、1時間ほどカモネギ狩り。


「まあ、こんなもんか」


 アイテムボックスを開いて、猟果りょうかをチェック。


 ──────────────────

 アイテムボックス Ⅰ 5/50

  ・プチオーク(解体前):78

  ・コカトリス(ブロック):20

  ・カモネギソルジャー(解体前):10

  ・カモネギソルジャーの水かき:10

  ・ネギソード:10

 ──────────────────


 あの立派なネギ、ネギソードっていうんだ。

 カモネギソルジャーが剣として構えていたから、事実そのとおりではある。

 はたして分類は食材(ネギ)なのか、武器(ソード)なのか。


 俺にとっては食材だからそれでいっか。 



「さて、あとはニンニクとショウガだな」


 ポヨヨ〜~ン。


 気の抜けたオノマトペ。

 今のはアブラがなにかを弾いたオノマトペだ。


 まさかカモネギ達が戻ってきた?


「はんっ。生意気にもシールド張ってやがる」

「いいじゃねぇか。お楽しみの時間が増えたんだからよぉ」

「ぎゃはははははは! ちげぇねぇ!!」


 違ったわ。

 なんか世紀末ザコみたいな二人組が出てきた。

 手にボウガンみたいなものを持ってる。


「おにぃちゃあん。お金貸してくれよぉ」

「ちょっとそこでジャンプしてみろよぉ」


 違ったわ。

 昭和のヤンキーだった。リーゼントが似合いそう。


 あれ?

 なんとなく見覚えがあるような。ないような?


「おい……なんとか言えよ」

「やっぱ、コイツ気に入らねぇわ」

「………………」


 俺はなにも答えない。いや、


「フルル様はよぉ。テメェなんかが言葉をかわしていい御方じゃねぇんだよ」

「それどころか、ハ、ハ、ハグまでして貰いやがって!」

「調子乗ってっとぶっ殺すゾ。オラァ」

「そうだ、ぶっ殺すゾ。オラァ!」


 あ、こいつらフルルの強火担か。

 見たことあるっつうか、昨日めっちゃニラんできてたヤツらだ。


「ぁ………………ぃゃ」


 でもアレ、俺は悪くないよね。

 ぜんぶフルルが勝手にやったことじゃん。


 って言いたいのは山々なんだけど、前世で刷り込まれた苦手意識のせいで言葉が出てこない。


 俺には苦手なものが3つある。


 口撃力が高いマシンガントーク女子。

 カースト下位を無意識に見下すパリピ。

 それから、暴力至上主義のヤンキーだ。


 忌々しい中学の同級生、不良の山岡。

 俺をサンドバックと呼んで、休み時間のたびに殴ってきた山岡。


 あれ以来、すごまれると山岡のニヤニヤした顔が目の前をチラついて、恐怖で身体がすくむんでしまう。


 ゾウみたいなウサギだとか、ヘビがくっついたニワトリなんかより、人間の悪意の方がよほど恐ろしい。 


「おい、コラ! ナメてんのか?」


 昭和ヤンキーAが威嚇いかくしながら近づいてくる。

 俺が後ずさると、喜々とした表情で昭和ヤンキーBも距離を詰めてきた。


「そ、それ以上……ち、ち、近寄るなっ!(かすれ声)」

「はァ? 聞こえねぇなあ! 声が震えてんぞ」

「うひゃひゃひゃひゃひゃ! ビビりすぎだろ、コイツ!」


 自分より弱そうなヤツをいたぶるのが楽しいだけのクズ。山岡のクソ野郎とよく似てやがる。


「け、け、警告は、したからな(ふるえ声)」

「おうコラ、やれるもんならやってみろや!」

「てめぇなんかに何ができんだよ、このビビリ野郎」


 そうだ。俺はビビリ、俺は臆病……だった。

 でも、それは前世の俺だ。芳村次朗のことだ。


 今の俺は、ジロー=ヨシムラ。

 この世界に生まれ変わった、新しいジローなんだ。


「ふぅぅぅぅぅぅ、はぁぁぁぁぁぁ」


 大きく息を吸って、大きく吐く。


「カラメマシマシ」


 神から与えられたチートスキルで、攻撃力を大きく上昇させる。

 身体の奥底から力が湧き上がって来るのを感じた。


「はぁ? なんだ、その詠唱は?」

「へっ、聞いたことねぇ詠唱だし、どうせコケおどしだよ」

「…………」


 俺はなにも


 こいつらと言葉を交わすことに意味なんかない。

 どうせ暴力でしかコミュニケーションができないかわいそうなヤツラなんだから。



 いま、ここで。

 俺は苦手をひとつ克服する。




 🍜Next Ramen's HINT !!

 『あの日の約束』



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