限界ラオタ、断られる


 街についた俺は、いの一番で冒険者ギルドを目指した。


 異世界といえば、やはり冒険者だ。


 我こそは冒険者でござい、という風体の男女が出入りしている建物。

 表から覗き込むとカウンターに受付嬢らしき人が立っていて、近くにはクエスト依頼と思われる紙がベタベタと貼られた掲示板がある。


 うん。ここだな。間違いない。


 建物に入った俺は、カウンターへ向か――わずに、壁にかかった姿見鏡スタンドミラーの前に立った。


 だって、どうしても気になるんだ。

 新しい自分の姿が。


 歳は20代……前半ってことにしておこう

 身長は172……、3、いや175センチくらいだと思う。

 碧(青緑)色の髪、パッチリした目、シャープな輪郭。

 多少筋肉はついているけど、ムキムキではない。

 なによりワガママ放題だった脂肪がすっかり姿を消している。


 様々な角度で顔をチェックし、いろんなポーズを取ってみる。

 うん、悪くない。

 男子20人のクラスで5番以内なら、なんとか滑り込めそうな顔面偏差値。


 だけど、そろそろ周りの目線が痛いな。

 完全に自業自得なのだけど。


 姿見鏡に後ろ髪を引かれつつ、俺は受付カウンターへと向かう。


 さあ、俺も今日から冒険者だ。



「申し訳ありませんが、現状ですと冒険者登録はご利用いただけません」


 受付のお姉さんに笑顔で断られた。

 まさかすぎる展開。


 素性の怪しいヤツでもとりあえず一度は受け入れてくれるのが、冒険者ギルドってやつなんじゃなかったんか。


「え、え、えっと。俺、いやボクに、な、なにか問題でも?」


 久しぶりに女性と話すものだから、ちょっと緊張する。

 挙動不審な俺に、受付のお姉さんは優しく微笑んでくれた。営業スマイル100%。


「登録には住所の記載が必須となっておりまして」


 住所!?

 異世界に転生してきたばかりの俺に『住所』を用意させるのは流石にハードル高くない?


「そんなに難しいお話ではありませんよ。住所といっても生活の拠点としている場所で良いんです。なので、下宿はもちろん、定宿でも大丈夫です」

「宿でもいいんですね」


 ギルドから冒険者に用があるとき、尋ねる場所がわからないのでは困るということだろう。さもありなん。


 じゃあ、まずは宿を探し……と、そこまで考えてハッと血の気が引く。


 俺は服の懐、ポケット、ポシェットと順にまさぐった。


 ない。

 どこにもない。

 お金らしきものがどこにもない!

 この身体の元の持ち主は、無一文でどうやって生活していたんだ!?


「どうされました?」

「あ、あの……えっと。や、宿を決めたら、また来ま……す」

「はい。お待ちしております」


 受付嬢のお姉さんは、最後までニコニコ笑顔だった。スマイル0円。


 まずはお金だ。仕事を探そう。

 もしかしたら、住み込みOKの仕事だってあるかもしれない。


 一軒目、武器屋……断られた。

 二軒目、定食屋……断られた。

 三軒目、清掃員……断られた。

 四軒目、五軒目……いくら回っても無下にされる。


 理由はみんな一緒だ。


「住所不定のあやしいヤツを雇うバカはいねぇよ」だって。


 そりゃそうか。

 平和な日本ですら、商品や売上を持って逃げるヤツが存在するのだ。

 ましてや、ここはRPGみたいな異世界。

 簡単に流れ者を信用していたら、命がいくらあっても足りないのだろう。


 俺にとっては残念なお知らせだが。



 あっという間に陽が暮れてきた。

 今日、泊まる宿すらアテが無い。もうため息も出ないよ。


「お兄さん、お困りのようですね?」


 若い女性の声。

 これは反応したらダメなヤツだ。


 俺はその声を無視して歩みのスピードをあげる。


「ちょ、ちょっと、ちょっと。話だけでも聞いてくださいよっ」


 返事をしたら負けだ。

 俺は前世でこの手の勧誘に引っかかって、変な絵を20万円で買わされた苦い思い出がある。

 ちなみに月々約1万8千円の12回払いで完済した。


「おにぃさあああぁぁん!!」


 ドン、と背中に強い衝撃。

 そして、ふわりとやわらかな感触。


 後ろを振り向くと、桃色の長い髪をした女の子が俺の背中にドッキングしていた。

 つまりこのやわらかいのは……お、おっぱ……おーぱっきゃらまーど♪


「あ、あの……放して、くださ――」

「話してください、ですって? もちろんですとも!!」


 快諾してくれているのに、一向に離れる気配がない。


「お兄さんにお願いがあるんです」

「あ、い、要りません」

「押し売りじゃありません!」

「じゃ、じゃあ、マ、マルチの、か、勧誘とか?」

「マルチ? よくわかりませんが、クエストの依頼です」


 ここまでずっと、彼女は俺の背中にくっついたまま。

 いつになったら放してもらえるのだろうか。


 ん? クエストの依頼だって?


「で、でも俺。ぼ、冒険者じゃないし」

「知ってます。私、断られているところ見てましたから。冒険者ギルドも、武器屋も、定食屋も――」

「わ、わかりました。わかりました! も、もう勘弁してください」


 最初から全部見られてんじゃん。

 恥ずかしいから、それ以上はやめてくれ。


「これはお兄さん個人への依頼です」

「個人への……い、依頼?」

「そうです。ギルドに目をつけられるから、あまり大っぴらには言えない、いわば闇依頼ですね」


 そんな闇営業みたいなヤツもあるんだ。


「な、なんで、ギルドに依頼しないんですか?」

「それは……懐の事情といいますか……。でも、お兄さんにご納得頂ける対価は用意できます!」


 ギルドに払えるお金はないけど、対価は支払える?


 いったいどういうことだろう。


「住むところが必要なのでは?」


 住むところ……はっ!

 もしや、この女の子とひとつ屋根の下!


 ラノベの王道展開キタコレーーー!


「ぜひ、お話を聞かせてください」

「ほんとですか!? やったあああ!!」


 目を輝かせて、こちらを見つめる薄いグレーの髪をした女の子。


 ふわりとしたボブカット、ぱっちり二重の大きな瞳、透けるような白い肌、幼さの残る笑顔、決して巨乳ではないが存在感のある胸元。


 控えめにいっても、めちゃくちゃタイプだった。




 🍜Next Ramen's HINT !!

 『女の子の手料理』

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