限界ラオタ、異世界に転生する


 目を覚ました俺の目の前にいたのは、漫画やアニメで何度も見たことがあるアノ人だった。人というか、超人だった。


「え? もしやあなたはラーメンマ――」

「おまえはバカなのか?」


 はじめまして、なのに「バカ」って言われた。

 上半身裸で、クソ長い三つ編み以外スキンヘッドで、ドジョウみたいな髭を垂らした糸目の元残虐超人のくせに。


 よく見たら額に文字が無いな。

 ふわふわ浮いてるし、どうやら超人とは別のやべぇヤツみたいだ。


「いきなりバカとはなんですか。失礼な」

「医者から余命ゼロ日を宣告されて、そのままラーメンを食いに行くヤツがあるか。しかも『大豚ダブル』など頼みおって。この限界ラーメンオタクが!」

「心外ですね。ちゃんと健康には気を遣ってコールしましたよ。普段なら全マシマシにするところを『ヤサイマシマシニンニクアブラカラメ』にしましたし、忘れずに黒烏龍茶だって飲みました」

「気の遣い方がナナメウエすぎるっ!!」


 三つ編みハゲのオッサンにツッコまれた。

 まるで現実味がない。


 …………いや、そもそもこれは現実ではないのだろう。


 だって、辺り一面なにも無いんだもん。


 本当に何もない。

 見渡す限りの白、ホワイト、ヴァイス、ビアンコ。


 建物が無い精神と時の部屋。そんな感じ。



「あなたは……神様?」

「おまえの知識にあるものでは、界王の方が近い」

「界王様であらせられましたか」


 ハハァ、とわざとらしく平伏してみる。


 地球の神よりも、もっと大きな宇宙の神。それが界王。って某人気漫画で読んだことがある。

 ラーメンオタクで、マンガオタクで、アニメオタクの俺に隙は無い。


 あれ?

 さらっと『おまえの知識にあるもの』って言われたけど、もしかして俺の頭の中って界王様に覗かれてんの?


「宇宙の神ではなく『世界の神』だ。いくつもの世界を管理しておる」


 やっぱ、覗かれてんなコレ。

 それはさておき、単位が星じゃなくて世界だった。

 ザ・ワールド。スケールでかい。


 あー、つまり俺のいた世界の神であると同時に、いわゆる『異世界』の神でもあるってことか。


 ん? 異世界だって?

 ということは?

 まさか!?


 オラわくわくしてきたぞ!!


「うむ。そのまさか、じゃ」


 やっぱりか!


 俺の今後が見えてきましたよ。

 当ててみせましょうか?


 いや、ここは「せーの」でいきましょう。

 いいですか? 「せーの」ですよ?


 せーの!


「「異世界転生!!」」


 気持ちよくハモった。

 オジサンふたりがハモったからなんだって話だが。



「ちなみに……なんで俺なんですか?」

「うん? 理由はいろいろあるんだが……まず三十路を越えて尚、清らかであること」


 こんなところで童貞が役に立つとは思わなかった。ハッピーチェリーボーイ。35DT魔法使いバンザイだぜ。


「それから……死に方がおもし――めずらしいこと」


 いま、絶対『面白い』って言いかけたよな。

 俺はそんなに面白い死に方をしたんだろうか。

 

 気になるけど、知らない方が幸せな気がする。


「それから……人生が比較的ふこ――」

「もういいっす。お腹いっぱいです。勘弁してください」


 いま、絶対『不幸』って言おうとした。

 もう聞きたくない。

 これ以上、心の傷をエグられたら泣いちゃう。


 とりあえず、残念人生を送ってきたことが評価されての転生だということはよくわかった。



 もっと別の話をしよう。

 転生するとなれば、いろいろと聞いておきたいことがある。


「どんな人に転生するんですか? 赤ん坊からはじまるタイプですか? それとも人格が入れ替わるタイプですか?」

「急にグイグイくるな、おまえ。まあいいケド。人格が入れ替わるタイプだ」

「なるほど、そっちかあ。そうなると新しい世界の常識とか覚えるのが大変そうだな。それとも、前の人格の記憶を引き継げるタイプかな。あっ、記憶といえば、今の俺の記憶はそのまま持っていけるんですか?」

「記憶はそのままだ」

「よしっ!」


 思わずガッツポーズ。

 記憶が無い異世界転生なんて、ただの輪廻転生だからな。


 これで最低限重要なことは確認できたか。

 あああああ、いやいや、もうひとつ重要なことを確認し忘れていた。


「あの……チートはあるんですかね?」


 異世界転生といえばチート。

 ステータスでもスキルでもいい。なんかのチートをくれ。

 チートの無い異世界なんて、ただの罰ゲームなんよ。


「ある」

「あるんですね! どんなチートなんですか?」

「ラーメン」

「おお! ラーメンですか!!」


 なるほど。ラーメンか。

 この俺にピッタリのチートじゃないか。


 俺の一途なラーメン愛を界王様が、いや世界が認めたに違いない。

 


 ……で。

 どんなチートなのよ。ラーメンって。


「それは、ごにょごにょごにょ」

「え?」


 急に界王様の言葉が聞こえづらくなった。

 姿もどんどん透けていく。なんか幽霊みたい。幽霊超人。




【タイムアップです。次の人生に転生します】


 唐突にアナウンスみたいなのが流れてきた。


 タイムアップ!?

 そんなのあるなら先に言ってくれよ、界王様!!




 まばゆい光に包まれて、俺は新しい世界で新しい人生を歩むことになった。


 目を開けると、これまで生きてきた世界とは全く違う光景が広がっていた。


 澄み切った青い空。

 ギラギラと照り付ける太陽。

 青々と萌ゆる、緑豊かなの木々。


 すんげぇデカい黄金のクマさん。


 動物園で見たクマの10倍くらい顔つきが凶悪。

 ぼくはハチミツよりお肉が好きなんだ、って顔に書いてある。


 そいつは右腕を振り上げる。

 黄金の身体が大きく広がった。

 右腕は勢いよくナナメに振り下ろされた。



「ぅんぎゃああああああああああ!!!」


 黄金のクマさんの爪が、俺の腹を引き裂いた。




 🍜Next Ramen's HINT !!

 『ヤサイマシマシニンニクアブラカラメ』

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