【完結】余命0日!?限界ラオタの転生〜激レア食材を探してモンスターハント!気づいたら最強の白金級冒険者になってました。スライムもオークもドラゴンも究極の具材にしか見えません
石矢天
限界ラオタ、ラーメンに死す
「
白衣を着た女医さんが、事もなげにそう言った。
35歳にして、まさかの余命ゼロ日宣告である。
いやいやいや。
ちょっと何言ってるかわからない。
余命ゼロ日ってどういうことよ。
俺、いま生きてるじゃん。
だいたいな。俺ほど健康に気を遣っている人間もそうはいないぞ。
余命ゼロ日なんて、信じられるわけがない。
ははーん。さてはこいつヤブ医者だな。
「冗談キツいっすよ、先生」
「冗談ではありません。これが検査結果なんですけど……どれもこれも異常値です。いま生きているのが不思議です」
「「……………………」」
診察室が静寂に包まれた。
つまり、どういうことだってばよ。
お前はもう死んでいるってか。
「芳村さん、今朝はなにを食べて来られました?」
「とんこつラーメンですね」
24時間やってる有名なとんこつラーメンのチェーン店で替え玉を……1、2、3玉。
朝食なので軽めにしておいた。
「昨晩はなにを?」
「つけ麺です。ベジポタ系の」
ベジポタとはベジタブルポタージュの略。
つまり野菜スープのつけ麺。
体に良いこと間違いなし。
全部乗せを特盛にしたけど腹六分目だった。
腹八分目が健康に良いというから、少し足りなかったかもしれない。
これについては、もちろん反省している。
「…………では、昨日のお昼は?」
「味噌ラーメンでしたね」
女医さんが眉間にシワを寄せている。
味噌は完全栄養食だろ?
なにがそんなに気に入らないってんだ。
「もしかして…………、いつも一日三食ラーメンなんですか?」
こいつ、俺をナメてるのか?
数多あるラーメン店を絶えずチェックし、ときには自炊で究極のラーメンを追及しているこの俺サマを。
一日三食とは、ずいぶんと侮られたものだ。
「まさか!? 最低でも一日五食はいきますよ」
俺はグイッと胸を張った。
胸を張ったつもりなのに、どうしても腹の方が前に出てしまう。
女医さんの顔は引きつっていた。
なにも言ってくれないので一番重要なことを訊く。
「えーっと。俺、助かるんですよね?」
ギシイィィ。
前のめりになったことで、小さな丸椅子が悲鳴をあげた。
やれやれ、俺の130キロを超えるワガママボディを支えるには貧弱すぎるな。
女医さんはハッと我に返った様子。
おいおい。患者を前にボーっとするなんてヤブ医者のうえに職務怠慢かよ。
「すぐに入院してください。ご家族にも連絡をしておいてください」
「いますぐ、ですか?」
「いますぐです」
これは衝撃だった。
入院はとても困る。いろいろと準備が出来ていない。
仕事……はまあいいとして。
お金……は持ってないけど、たぶん親が払ってくれるだろう。
彼女……はいなかったわ。いまも、いままでも。きっとこれからも。
「……ちょっと家族に連絡してきます」
そう言って、俺は診察室を後にした。
ついでに、そのまま病院も抜け出した。
これから入院しなくてはならない、ということであればどうしてもやっておかねばならないことがある。
そう。
ラーメンの食べ納めだ。
入院したら好きなものを食べられなくなると聞く。
ならば、その前に野菜とニンニクとアブラがどっさり入った『大豚ダブル』を胃に納めておこうと考えたのだ。
野菜もたくさん食べるし腹八分目だし、きっと健康に良いハズだ。
§ § § § §
「ニンニク入れますか?」
「ヤサイマシマシニンニクアブラカラメ」
(訳:野菜めっちゃ多くして、刻みニンニクとアブラブロックをトッピングして、上からしょっぱいタレをかけてください。お願いします)
平日の昼間だというのに30分以上も行列に並び、ようやく席に座れた。
席に着くなり店員さんから飛んでくる『ニンニク入れますか?』の声。
颯爽とコール――まるで呪文のような例の注文――を返す俺。
この愛にあふれたやり取りがしばらく出来なくなるのだと思うと、胸がぎゅうぅぅと苦しくなる。
俺はラーメンに恋をしている。
ラーメンも俺のことを好きに違いない。
これから始まるのは遠距離恋愛だ。
たとえ入院しても、俺は
カウンターの上にドン、と置かれる巨大な山。
積み上げられた茹で野菜(モヤシとキャベツ)、その上に乗っているドロドロのアブラブロック。そしてドスンと存在感のある厚切りチャーシュー。器の端には荒刻みのニンニクが小さな丘を作っている。恥ずかしがり屋の麺はモヤシの下に隠れ、その姿を見せない。
「いただきます」
(訳:愛してるよ)
まずはアブラと一緒に茹で野菜を食す。
塩気の効いたアブラ、上から掛けられたカエシ(醤油ダレ)の塩分で、茹で野菜が最高の前菜になる。
肉はデカいが柔らかく、こちらも塩味が染み込んでいてたまらない。
ここで黒烏龍茶を一口。
アブラの吸収を抑えることで、栄養バランスを調整するのだ。
ある程度、野菜と肉を食べ進めたら、ついに麺の登場だ。
天地返し――麺を持ち上げて野菜と場所を入れ替える技――をしないのかって?
麺をカタカタ――めっちゃ硬い、茹で時間の少ない麺――で注文しておけば天地返しなんかしなくても良い塩梅になる。
それに俺は、麺はアツアツが好みなんだ。
天地返しなんかしたら冷めちまうだろ。
10分ほどで『大豚ダブル』を完食、スープまでしっかり完飲した。
「ごちそうさま!」
腹八分目。最高の一杯に満足した俺は、空のどんぶりをカウンターの上に置いてすぐに退店する。
つぎのお客の邪魔にならないよう、ダラダラしないのは当然のマナーだ。
「さて、と。そろそろ親に連絡――」
スマートフォンを取り出した俺を襲ったのは、突然のめまいだった。
地面が揺れる。
空がひっくり返る。
違うな。ひっくり返ってるのは、たぶん俺だ。
(あ……、俺もしかして……死ぬ?)
意識を失った俺が再び目を覚ましたとき、目の前には『上半身裸でクソ長い三つ編みとドジョウのような髭を垂らした男』が立っていた。……いや、浮いていた。
🍜Next Ramen's HINT !!
『ハッピーチェリーボーイ』
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