限界ラオタ、ダブルスープを作る



鶏がらコカトリスの肋骨は内臓やら血合いやらを水洗いで流して」


 ジャブジャブ、ギュッ、ギュッ、ギュッ、ギュッ。

 桶の中に張られた水がにごる。



 ボコ、ボコボコボコ、ボコボコ。


「沸騰したお湯で下茹でしたら、もう一度洗って」


 ザバァァァーーーー。

 ギュッ、ギュッ、ギュッ、ギュッ。


「ネギは適当な長さに、犬生姜は薄切りに」


 ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ、トン、トン、トン、トン。


 まだ人も草木も眠っている静かな早朝に、包丁の音だけが響いて心地よい。


「ニンニクンは適量を包丁でつぶす、と」


 グッ、グッ、グッ、グッ。

 嗅ぎなれた独特アリシンの香りが広がる。


「ぜーんぶ、ぶち込んだ鍋に水を入れて煮るべし」


 アクが出てきたら、火は抑えつつアク取りは丁寧に。


 


「そろそろかな」


 スープの色が変わってきた。

 香りも……。うん、前よりスッキリと洗練された気がする。


 ザルでして、味が抜けた鶏がらと野菜どもをスープから取り除く。


「よっし。いい色だ」


 黄金色の『鶏がらスープ』の完成だ。

 俺はスープを小皿に取って味見をする。


「よし、イケる」


 原生の野菜で試作したときとは大違いだ。

 モンスターは土に埋まっていないから当然なのだが、まず変な土臭さがない。


 なにより言葉では表し辛いが、生命力にあふれているというか、素材の味が良い意味でクッキリしている。


 まずコッチは成功だ。


【スキルが解放されました】

──────────────────

 固有スキル「ラーメン」

☆アクションスキル

  ・メンカタ

   防御力をUPする


解放条件:完成度(中)以上のスープを作る

──────────────────


 お、スキル解放。

 完成度(中)以上、ね。

 完成度(高)とは認めてくれないわけだ。

 ふぅん、へぇ、ほぉ。


 結構、辛口じゃん?


 新スキルはメンカタか。

 防御力UPも悪くないんだけど、アブラのバリアとやや被る……。


 まあいいでしょう。

 このスープはまだ伸びしろがあるということです。


 と、いうことで。


「今日は鴨ガラでも出汁を取る!」



 アイテムボックスから引っ張り出したカモネギソルジャーが一匹。


 なにはともあれ、まずは解体だ。


「つっても、俺。カモの解体はやったことないんだよな。同じ鳥だし、ニワトリと似たようなもんだと思うけど……、とりあえずやってみるか」


 羽が邪魔だ。

 俺は無心でカモネギソルジャーの羽をむしる。 


 その時、不思議なことが起こった。

(4日ぶり3回目)


 このあと、どう処理すれば良いのか、どう調理すれば良いのか、感覚でわかってしまう。


 なんなら今も羽根をむしりながら「この羽根は羽毛布団に良さそうだなあ」とか思っている。


 知識が流れてくる感じじゃない。

 心に直接伝わってくる感覚。


 そうか!

 これがパッシブスキル『モンスターマニア』の効果なのか!


『モンスターのことを心で理解できる』っていうのはモンスターと心が通じ合う、みたいなファンシーなスキルじゃなかった。


 素材とか、食材として理解できるって意味だと心が理解した。


 蒐集家コレクターのスキルなんだから当然か。


 ――3時間後


「うん。上出来だな」


 鴨ガラスープが完成した。

 コカトリスよりも、味や匂いにクセがあるが旨味が強い。だが、それがいい。それでいい。


 鶏ガラスープと鴨ガラスープを混ぜて最適なバランスを探す。


──────────────────

 固有スキル「ラーメン」

☆アクションスキル

  ・ショウガ

   状態異常を無効化する


解放条件:完成度(大)以上のスープを作る

──────────────────


 よしきた!

 完成度(大)まできましたよ。


 正直、清湯スープとしてはなかなかの出来だとおもう。


 ふぅ、と息をついて椅子に座り込む。

 もう何時間もスープ作りに没頭していたから、まだ朝だというのに、もうクタクタだ。


 コンコン、コンコン。


 家の扉がノックされた。

 なんて間の悪いことだろう。

 さっき椅子に座り込んだばかりのこの身体は、ちょっとやそっとでは立ち上がれない。


 どなた様か知らないが、今回は諦めてい――。


「ジローさーん」


 キキョウさんだ!!


 俺の身体は飛び跳ねるように扉へと向かった。



   §   §   §   §   §



 朝からとても良い匂いが漂ってきて、キキョウは目を覚ました。


「この匂い、どこから……なんて。そんなの決まってますよね」


 こんな良い匂いをさせられるのは、この村の救世主メシヤであるジロー以外には考えられない。


 それにこの匂いは、昨日こっそり味見をしたコカトリスのスープとそっくりだ。


(そう。そっくりなんだけれど、なんだか昨日とは少し違うような気がします)


 キキョウは料理のプロではない。

 はっきりと言葉にすることはできないが、昨日のスープよりも複雑で、しかも洗練されたように感じたのだ。


「ジローさんに聞いちゃいましょう」


 キキョウはサッと寝間着から着替えて、ジローの家の扉をノックする。


 コンコン、コンコン。



 返事がない。

 まさか倒れているのでは、とキキョウは少しだけ不安になる。


 昨日も朝からスープを作ってモンスター討伐に行き、帰ってきた頃には夜も更けていた。


 まさかとは思うが……。


「ジローさーん」


 声をかけると、中でドタバタガシャンカランカランと騒々しい物音がした。


(良かった。平気みたいです)


「は、はーい。すぐ開けますねぇ」


 そう言って扉を開けてくれたジローさんからは、スープと汗が混じったような匂いがした。


 キキョウはこの匂いを知っている。

 子どもの頃、まだ村が賑やかだった頃にたくさんいた料理人の匂いだ。


「今日はなんのスープを作っていたんですか?」

「鶏ガラと鴨ガラの合わせ出汁ダブルスープです」


 なんのことだか、サッパリわかりません。

 ハイレベルな料理用語でしょうか。


 キキョウが困惑していると、ジローが慌ててフォローをはじめた。


「えっとですね。コカトリスのスープと、カモネギソルジャーのスープを作って合わせたんです」

「わざわざスープを2つ作って、混ぜたんですか?」


 ジローはさも当然のように話しているが、キキョウはそんな調理法を聞いたことがない。


「はい。ベストな配合率を探すのがちょっと大変でしたけど、良いスープができました。飲んでみますか?」

「ぜひ!」


 立ち上がる香気。

 いつの間にか、口の中が唾液であふれている。


 スッ。コクッ、コクッ、コクッ。


 ジローに出されたスープは、昨日飲んだスープですら児戯に感じられてしまうほど素晴らしいものだった。


 キキョウは確信した。

 そして決意を言葉にする。


「ジローさん。私と一緒になってください」




 🍜Next Ramen's HINT !!

 『村おこし』


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