限界ラオタ、さらに昇級する
「その男はウソなどついていない。私が……、『飛翔する獅子』のフルルが、名誉を賭けて保証しよう」
街で一番とも言われる
それはもう見事なテノヒラクルーだった。
「申し訳ございません、申し訳ございません! まさかフルル様のお知り合いとはつゆ知らず!!」
そう言ってコメツキバッタのように頭をペコペコ下げているのは受付さん1号だ。
「へへっ、やっぱりな。俺はタダモノじゃないと思ってたぜ」
華麗に後出しジャンケンでヨイショしてくる野次馬ども。
おまいらのこと嫌いじゃないぜ。
「オレはスタンピードでアイツがプチオークを追い回しているところを見たぞ。プチオークがまるで兎のように逃げ回ってたんだ」
テメェはなぜその話を今まで黙っていた。絶許。
「なんだ、アイツ。ムカつくな。俺らを差し置いてフルル様と知り合うとかナメやがって」
やべっ。フルルの
そんなこんなで、コカトリスの討伐が認められて報酬――なんと金のコインが5枚!――をもらえたし、冒険者クラスもさらに昇級して
認識票の名前もちゃんと『ジロー=ヨシムラ』になっているし、これまでと同じ人が書いたとは思えないくらい丁寧な筆致。
やっぱ金級冒険者ってスゴいんだな。
神さま、仏さま、フルルさまさま!
つまり、俺は圧倒的に格下。もはや虫ケラ。
ここはしっかりと誠意を示しておかなくては。
前世でスクールカースト最下位だった俺の立ち回りをとくと見よ!
「あ、あの。助けていただいて、あ、ありがとう、ございました。お礼になるか、わ、わからないんですけど……」
俺は
「なにをバカなことを」
3枚では足りないのか?
むぅ。仕方ない。
俺は再び布袋に手を入れ、金のコインをもう1枚取り出す。
しかし、フルルは静かに首を振る。
くっ!
布袋ごと寄越せ、ということか。
金級への報酬の高さが身に染みるぜ。
折角稼いだお金だが、これからもこの世界で生きていくためには、背に腹は変えられない。
俺は断腸の思いで布袋をまるごと差し出した。
しかしフルルは布袋ではなく、布袋を持つ俺の手を両手でふわりと握ったのだ。
あっ、あっ。
みんな見てるから。
なんかジェラシー爆発させた視線も感じるから、本当にやめてぇぇぇ!
「礼など不要。助けられたのは私の方だ」
「へ?」
「あのとき、君がコカトリスを倒してくれなければ、私が生きてこの場にいることはなかった」
「そ、そんな。大げさですよ……」
ちょっと大きいだけのニワトリじゃないか。
金級のフルルさんならアレくらい瞬殺だったんでしょ?
「君は謙虚なのだな。あれだけの力を持ちながら……。うん、気に入ったぞ!」
なんか気に入られた。
フルルが俺の手をグイと引き寄せる。
「どうだ? 私のパーティーに――」
街で一番とも言われるパーティーに誘われた。
もちろん、俺は即答したさ。
「ごめんなさい。お断りします」
あ、空気が凍った。凍死しそう。
と思ったら、強火担のヤツラからは殺意の熱視線。焼死しそう。
「そ、そうか……」
断られるとは思っていなかったのだろう、さしものフルルも二の句が継げずにいる。
だってしょうがないじゃないか。
俺にはこの世界でやるべきことがあるんだから。
必要な食材を集めて、究極のラーメンを作るという使命が!
でもここは当たり障りのない感じでお茶をにごすのが大人というもの。
「申し訳ありません。俺はまだまだ修行中の身。フルル様のご厚意に甘えるわけにはいかないのです」
どうよ、この完璧なお断り。
自分を下げ、相手を上げ、なおかつ強引に誘いづらいパーフェクトアンサー!
フルルの方をみると、顔を伏せてふるふると震えている。
ダジャレとかじゃないから。
そういう目で見るのはやめろ。傷つく。
顔を上げたフルルは、なにを思ったのか俺に抱きついてきた。
ちなみにガッツリ鎧を着こんでいらっしゃるので、オッパイの感触とか女性の身体の柔らかさみたいなものは全く感じられない。むしろ硬い。痛い。
強火担のヤツラは親の仇でも見るかのような目でニラんでくるし、踏んだり蹴ったりだ。
続・だってしょうがないじゃないか。
振りほどこうにもめちゃくちゃ力が強いんだって、この金級冒険者。
フルルが俺をハグしたまま、背中をバンバン叩いてくる。
痛い、痛いってば。
強烈な張り手で、身体が鎧の胸プレートに叩きつけられてんだよ。
胸骨折れちゃう。
「そうか……。わかる、わかるぞ、その気持ち! 感動した!!」
なんか感動されちゃった。
いや、そんなことはどうでもいいから――。
「そろそろ……はな……し……ぐぇ」
「私は君と会えたことを嬉しく思うよ! うん、うん!!」
クソッ、ぜんぜん聞いてくれねぇ。
ああ、めんどくせぇ。
「カラメ(ボソッ)」
攻撃力を強化した俺は、フルルの肩――正確には鎧の肩当て――に手をかけ、力を調整しながらゆっくりと身体を引き離した。ケガでもさせたら大変だ。
「おおっ!?」
「俺も貴女とお会いできて良かったです。もっとお話をしていたいのですが、用事がありまして。今日は失礼させていただきます」
「そうか。いや、残念だが仕方ない。次は食事にでも行こうじゃないか」
「ははっ。楽しみにしてますよ。それではまた」
俺はそう言って、逃げるように冒険者ギルドを後にした。
さっきから強火担のヤツラの目が据わってるんだもん。今にも武器を抜きそうな目してたから。怖ぇって。
それにしても、今日は散々な一日だったな。
ああ、今頃になってどっと疲れが出てきた。
鶏がらスープ用の野菜を市場で買って、さっさとキキョウさんが待ってる村に帰ろう……。
──────────────────
アイテムボックス 5/50
・プチオーク(解体前):78
・コカトリス(解体前):1
・市場の原生ネギ:3
・市場の原生ショウガ:1
・市場の原生ニンニク:1
──────────────────
🍜Next Ramen's HINT !!
『マイホーム』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます