限界ラオタ、昇級する


「これ、全部ひとりで?」

「そうです」


 俺、仲間いないからね。

 そりゃあ、ひとりですよ。ひとりきりですよ。


 哀しくなるから、そんな目で見ないでよ。






 オークジェネラルが倒されたことで、スタンピードは終わった。


 冒険者たちがそれぞれの成果を報告しようと、カウンターに並んでいる。


 ある者は銅貨を数枚もらって不服そうに立ち去り、ある者は金貨をもらって「今夜は俺のおごりだ」と友を飲みに誘う。


 ああ、これぞ異世界。

 これぞ冒険者の暮らし。


 なんだかワクワクするなぁ。



 俺も受付さん1号の前に行き、50を超えるプチオークの鼻をカウンターに提出した。


 豚鼻が山を作ってる。ちょっと気持ち悪いね。


「これ、全部ひとりで?」

「そうです」


 だってプチオークが驚くほど弱かったんだもん。

 パッシブスキルの『肉盛り系Ⅰ動物系への特効(小)』の効果もあったんだろうけど、『カラメ』で攻撃力を上げたらちょっと蹴るだけで倒せちゃうの。ワンキックマン。


 途中から俺が近づくと逃げ出すようになって、追いかけるのが大変だったけど。



 受付さん1号と受付さん2号が、顔を見合わせてカウンターの奥へと姿を消し、数分後に布袋を持って現れた。


「お待たせしました。こちらがスタンピード今回の報酬です」


 渡された布袋には金のコインが1枚と銀のコインがぎっしり入っていた。

 どれくらいの価値なのかはわからないけど、かなり重たい。


「それと……ギルドの規定により鉄級アイアンクラスへの昇級が決まりました。こちらが新しい認識票です」


 そう言って受付さん1号は、鉄製のプレートをカウンターに置いた。


 今回はすでに名前が書いてある。

 奥で書きつけてきてくれたみたいだ。


『ジコー=E=シムラ』


 どうしてこうなった?

 前回よりは正解に近づいてきてるけど。



 …………正解するまで見守ってみたくなった。


「どうかされましたか?」


 受付さん1号が怪訝な顔。


 せっかくなので、俺はもうひとつの要件を伝えることにした。


「すみません。スタンピードとは関係ないモンスターも倒しちゃって……指定の討伐部位がわからなかったんで、まるごと持ってきちゃったんですけど見てもらってもいいですか?」


 受付さん1号は額に手を当てて「やれやれ、これだから新人は」とでも言いたげな仕草。


「はあ……。討伐の指定部位くらいはご自分で調べていただきたいんですけどね。……今日は登録初日ですから特別ですよ」


 そう言って、カウンターにどうぞと手を差し出した。


「え? ここに置いていいんですか?」


 これ結構デカいよ?

 縦でも2メートルくらいあるし、胴の長さだと3〜4メートルくらいありそうだよ?


「はい? もちろんいいですよ」


 受付さん1号がいいと言っているから、とりあえず出して見ることにした。


 俺はアイテムボックスのスキルで異空間に繋がる黒い穴を喚びだすと、中からモンスターの身体を引っ張り出してカウンターの上に――。



「ストーーーップ! 待って、待ってくださいっ」


 全体の1/4くらい出したところで、受付さん1号が止めてくれた。

 良かった。本当に全部出しちゃっていいのかなって不安だったんだ。


「これ……コカトリスですよね」

「コカトリス……ああ!」


 そうか、このニワトリはコカトリスだったのか。

 ニワトリとヘビ、言われてみればコカトリスの特徴じゃないか。


 ちょっとニワトリの主張が強すぎて、ピンときて無かったわ。デカいニワトリだけど尻尾がなぜかヘビ、くらいのバランスなんだもん。


 アニメとかゲームのコカトリスは、もう少しバケモノっぽいというか身体の方にも爬虫類が混ざってる感じだったし、違和感がすごい。


「これも……おひとりで?」

「あー……」


 俺が倒す前にコカトリスと戦ってた金髪の女騎士……名前なんだっけ?

 いくら考えても思い出せないので、俺は考えるのをやめた。


「そうですね。ひとりです」

「ダウト」

「ざぶとん?」

「ダウトです。ダウト。コカトリスをひとりで? そんなウソ、5歳児だってつきませんよ」


 受付さん1号が両手の掌を上に向け、やれやれというポーズでハァとため息をつく。


「たまにいるんですよ。たまたま事故死したモンスターの死骸を拾ってきたり、ヒドいときは他の冒険者から死骸を買ってきてまで、『コイツは俺が倒した』と言いだす人が」


 めっちゃ言ってくるじゃん、受付さん1号。


 平気な顔をしているように見えるかもしれないけど、ただ反応に困って表情が固まっているだけだし、俺のハートはいま大ダメージを受けている。


「プチオークの鼻を78個も持ってきたときから怪しいと思ってたんですよ。たかがプチオークとはいえ、コレクターなんて非戦闘系ジョブを選んだ人がひとりで狩れる数じゃないですからね」


 俺、78匹も狩ってたのか……すごっ。

 でもなんか、それも全部ウソ扱いされてる。


 理不尽だし、恥ずかしいし、ちょっと怖い。


 口撃力こうげきりょくが高いタイプの女子は、前世からのトラウマなんだよぉ。


 精神攻撃スピリチュアルアタックは『アブラ』でも防げないンゴねぇ。



 隣に立っている受付さん2号はめっちゃジト目でこっちを見てくるし、周りの冒険者たちからも「なんか面白そうだぞ」的な視線をビシビシ感じる。


 いやまあ、わかるよ。

 俺も野次馬の方だったら絶対面白がってたと思うもん。


「さあ! どうせ調べればわかるんですから、今のうちに白状した方が身のためですよ」


 バンッ!


 受付さん1号がカウンターを両手で叩いて威圧してくる。


 なんなの?

 取り調べ専門の刑事さんなの?

 カツ丼出てくる?

 あ、あれは自腹なんだっけ……。


 だんだん目頭が熱くなってきた。

 マジで泣いちゃう5秒前。MN5。


 もういっそ「私がやりました」って言ってしまえば楽になれるかなぁ。


「あの……お、俺……」


 俺がありもしない罪を告白しそうになったそのとき、涼やかな声が救いの手を差し伸べてくれた。



「その男はウソなどついていない。私が……、『飛翔する獅子』のフルルが、名誉を賭けて保証しよう」


 そうだ。

 彼女の名前、フルルさんだった。




 🍜Next Ramen's HINT !!

 『強火』



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