限界ラオタ、ジョブを得る
「申し訳ありませんが、現状ですと冒険者登録はご利用いただけません」
受付カウンターのお姉さんは笑顔でそう言った。
前回と一言一句違わないセリフ。
まるでゲームのモブキャラじゃないか。
「あ、あの……。お、俺にまだなにか問題が?」
「ジョブの儀式がまだですよね」
ジョブって職業のジョブ?
戦士とか魔法使いとか、そういうアレ?
すげぇ、めっちゃRPGって感じじゃん。
俺が妄想にひたって黙っていると、落ち込んでいると勘違いしたのか、お姉さんが慌ててフォローをいれてくれた。
「あ、心配しなくても大丈夫ですよ。神殿に行けばすぐですから」
すぐなのか。
だったら、昨日教えてくれれば良かったのに。お役所仕事してるなぁ。
という本音はオブラートに包んで、お礼を言っておこう。
「ご丁寧にありがとうございます」
「いやいや、めずらしいものをみせていただいて」
「めずらしい?」
「このあたりの人たちは成人式で皆さん儀式を済ませるものですから。ジローさんくらいの方で儀式を済まされていないのはスーパースペシャルレアですね」
「SSRでしたか」
排出率は5%くらいですかね。
3%はちょっとエグいですよ、運営さん。
「どこか遠くの土地からいらっしゃったんですか?」
「あ……。はい、そうですね」
たぶん、そうなんじゃないですかね。知らんけど。
人格が入れ替わるタイプの転生で、元の記憶が残っていないとこういうときに面倒だ。
俺はその場を適当に濁して、神殿とやらに向かうことにした。
「……はい。この中から好きなジョブを選びなさい」
神殿の受付で神官らしきおじさんから分厚いカタログを渡された。
ジョブの特徴と覚えられるスキルが一枚ペラにまとめられた紙の束だ。
中身は剣士や武闘家といった戦闘系から、鍛冶師や裁縫師といった生産系まで様々。
「え? どれでも良いんですか?」
おじさんは面倒くさそうに「ああ」と頷く。
「あとでジョブを変更することも出来ますか?」
「もちろん出来るとも。ただし、前のジョブで覚えたスキルは全て失うがね」
メモ:やりこみ要素無し
余程のことがない限りは、転職するメリットは無さそうだなあ。
いやいや。もしかしたらアレがあるしれん。
「上級ジョブとかあります?」
「……あんたはお貴族様かなにかかね?」
「……いえ、……何でもないです。はい」
つい最近聞いたセリフだ。
冷たい目線も全く同じ。
きっと上級ジョブになるにはお金がかかるんだ。
それもちょっと貯金すれば、なんてレベルじゃない額が。
俺は素直に渡されたカタログをペラペラとめくる。
どれもピンとこない。
そうか。カラメマシマシ(攻撃力UP4倍)があるから、攻撃系スキルに心が動かないんだ。
パラパラとめくっていくと攻撃職から補助職に切り替わった。
ソロの俺が誰を守るんだ。パス。
回復スキルはもうある。パス。
そっち? 『誘うおどり』とかじゃないの?
どちらにせよパスだけど。
さらに、めくっていく。
ジョブの種類が多すぎるだろ。
自由度がウリのMMORPGかよ。
犯罪とか最低。パス。
ペラッ。
ふざけんな。パス。
ペラッ。
パス。
ペラッ。
パス。
ペラッ。
パス。
ペラッ。
パス。
ペラッ。
パス。
ペラッ。
パ……待て。
待て待て待て。
なんか勢いでパスしちゃったけど、さっき異世界定番のチートスキルなかった?
賭博師から、一枚ずつ紙を戻していく。
暗殺者、違う。
吟遊詩人、違う。
俺は昨日の苦労を思い出す。
アイテムボックスがあれば、ゾウサギだって楽に運べたんじゃないか?
それに俺は、これからモンスタードロップの調味料を集めるんだ。アイテムボックスが有ると無いじゃ効率が違いすぎる。
「これでお願いします」
「はいはい……ふぅん、そうかそうか。それじゃ、これにサインして」
差し出された紙にサインすると、身体があたたかな光に包まれた。
これがジョブの儀式というやつだろうか。
「はい、おわり。おつかれさん」
「あ、ありがとうございました」
「はいはい。それじゃな」
──────────────────
ジョブスキル『
☆アクティブスキル
・アイテムボックス Ⅰ 0/50
50種のアイテムを異空間に保管できる。
1種あたり99個まで保管可能。
保管しているアイテムの時間は経過しない。
──────────────────
その後、冒険者ギルドに戻った俺はあらためて冒険者登録をした。
受付カウンターのお姉さんの目線が、登録用紙――おそらくジョブの欄だ――と俺の顔を5回くらい往復する。
「冒険者に……なられるんですよね?」
「そうですよ?」
「あ、もうお仲間がいらっしゃるんですね?」
「いませんけど?」
「「………………」」
無言のまま目線だけがまじり合う。
よせやぁい。照れるじゃねぇか。
「大変!
女性の慌てた声が沈黙を破った。
🍜Next Ramen's HINT !!
『金髪の女騎士』
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