遠いあの日の空

「え…………僕、のため……」

「はい、そうです」


 訳がわからない。つばめの映画をつばめのためでなく僕のため。


「え、いや、え……誰のためだって?」

「だから、大輔さんのためです。そうだよな」

「そうですよ、大輔さん」

「当たり前じゃないですか」

「みんなそのためにあの日、集まったんですから」

「……ど、どういうことなの…………」


 目の前にいる部員がどんどん消えていく


「こ、これは一体……」


 視界が漆黒に染まり、しまいには何も見えなくなった。


「みんな、どこだ?返事してくれ」

「大輔!」

「え……」

「大輔、こっち」

「つばめなのか」

「こっちだよ」


 どこだよ、つばめ…………会いたい


 手を伸ばすと何かにつかまれた。


 突然、開ける視界。白いキャンバスに笑顔が溢れる両親の顔。そこにはつばめの姿はなく、白衣を纏った息の荒い男性と女性の看護師がいる。体は熱く、ベタベタとしている。

 何が何だか全くわからない。ここは病院だろう。しかし、何故ここに僕はいるのだろう。


「君の名前は?」

「高尾 大輔です」

「何歳?」

「十八歳」

「息子さんは大丈夫だと思います」

「本当ですか。長い間、ありがとうございます」

「いえいえ、これが仕事ですから。それと高梨さん、高尾くんの点滴交換しといて」

「わかりました」


 白衣の男性は父親と共に足早に僕のもとから離れていった。高梨という名札をつけた看護師が僕の腕と繋がる透明の水袋を交換している。


「どこか、体に痛いところとかありますか」

「いえ、特に………………つばめ」

「つばめ?」


 看護師の顔に見覚えがあった。あんなに求めていた、忘れるはずがないあの顔がそこにはあった。


「つばめ!」

「え、つ、つばめ?」

「すみません、高梨さん。つばめというのはですね、この子が夢中になった玄鳥げんちょうのことなんです」

「玄鳥ですか」

「はい、私もあまり詳しくはないんですけれど何千年も前に絶滅した鳥なんですよ」

「そうなんですね」

「ごめんない、仕事の邪魔をして。ほら大輔も高梨さんに迷惑かけないの」


 その後、僕は父親と母親から訳のわからない僕の現状について聞かされた。

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