欲しかった夏

 リハビリを終え、元の生活に戻れるようになった僕は入院当時から看護してくださった高梨さんに約三年間の感謝を伝え、ようやく病院を退院した。病院内でこれからの自分の進路を悩んだ。高校をやめて、このまま就職することも考えた。だけど、自分を見つめ直しているとき、不可能かもしれないけど、やりたいことを見つけた。


 高校に戻ると僕の椅子は三年にあった。単位は言うまでもなく不足していたのだが、学校側がなんとか僕の椅子も同級生と一緒に上に持って行ってくれていた。僕は懸命に勉強をした。大学入学のために。もちろん浪人した。そして幸運なことに浪人一年で国立の国際学部に入学することができた。

 国際学部で僕は色々な語学を習得して、大学卒業と共に映画配給会社に入社した。夢では映画製作部のみんなと映画を作っていたが、現実世界では映画を提供する側となった。


「待った?」

「いや、大丈夫だよ。それじゃあ行こうか」


 それに僕には恋人もできた。やっぱり幾ら歳を重ねても僕からつばめは消えてくれない。それは現実にも影響を与えている。僕は看護師の高梨さんに恋をして、その恋を実らすことに成功した。高梨さんと映画や花火大会など一緒に楽しんだ。

 順風満帆の自分の生活。それでもどこか足りないものがあった。高梨さんではなく、つばめとのあの夏。それが欲しかった。

 二十七歳の夏、僕はつばめのいないこの世界からいるかもしれないあの空へ舞い上がった。

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