花火大会

 ジェットコースターに乗っている気分。内臓が身体に付いていけず、腹が何とか彼らを止めている感じ。もうこの世に未練はない。高梨さんも新たな恋人を見つけて幸せに暮らすだろう。両親には申しわけない。こんな親不孝な子供で。


『あ……』


 空に星形の格好で鳥が飛んでいる。


『つばめ、まだ生き残っていたんだな』


 鈍い音が病院に響いた。


『ごめんなさい、高梨さん。この場所を選んでしまって』






「ごめん、待った?」

「え…………」

「切符ってもう買っちゃった?」

「え、切符?」

「持ってるじゃん、それ。私も買ってくるね」


 彼女の背中を見送りながら辺りを見回した。僕は町唯一の駅にいた。空には玄鳥が飛んでいる。


「お待たせ。買ってきたよ。……大輔、どうした?いつもとなんか違うよ」


 それにつばめがここにいる。


「いや、気のせいだよ」

「気のせいならいいけど」

「それじゃあ、花火大会に行くか」

「うん!」


 浴衣姿のつばめは嬉しそうにはしゃぎ、改札を通っていく。あぁ、これが僕の求めていたあの夏。


「あれ、大ちゃんとつばめさんじゃん」

「湊と美波も花火大会?」

「まあね」

「大輔、湊、美波、ちょっといい?」

「どうしたのかしこまって」

「改めてだけど一緒に映画を作ってくれてありがとう。三人がいなかったら今の自分は無かったから」

「それなら、茜にもお礼を言わなきゃ」

「あ、茜ちゃんにも後で連絡しないと」



 夜空に咲く大輪の花。隣を向けば、大輪の笑顔が満開。また戻ってこれた。つばめのいるこの世界に。僕の願いが叶った。


 玄鳥つばめが天高く舞ったこのせかいが僕の居場所なのだろう。


「ねぇ、見て!あの花火」

「凄い、綺麗だね」


 途轍もなく幸せに満ちている。この世界が永遠に続いてほしい。




















 周りの景色は崩れて、再び見えた映像はあの白いキャンバスだった。


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玄鳥が天高く舞ったあの空をもう一度。 ばみ @bami_409

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