希望の反応

 両親の口から出た言葉に僕は耳を疑った。


 高校一年二月、十六歳。僕は交通事故に遭った。玉突き事故だったらしい。横断歩道を渡っていた僕は後ろから追突され迫ってきたトラックと接触して昏睡状態に陥った。


 高校二年、十七歳。一向に目覚めない僕を両親は毎日生きた心地がしなかったらしい。昏睡状態になって何一つ反応を示さないので、医師による脳死判定の検査が何回か行われたらしい。しかし、僕は常に脳死か、そうじゃないかを右往左往していたそうだ。度々頬をつたる涙は両親の心を支えていた。


 高校三年七月、十八歳。ようやく僕は反応を示すようになってきたらしい。しかし、その反応に医師たちはとても不思議がっていた。夏場、冷房が効いているはずなのに大量に発汗するようになった。両親はそれを見て、眠りの中でバドミントンをしているのだと思ったらしい。眠っている僕の汗の処理は大変だったらしく、汗疹やかぶれができないように苦労したそうだ。


 高校三年九月、今日、ようやく僕は昏睡状態から目覚めた。




 話を聞きようやく僕のこの状況について少しながら理解ができた。僕はつばめに会っていない。それも、つばめなどどこにも存在しない。湊も美波も茜も映画製作部のみんなもこの世界にはいない。唯一、彼らは僕の心のなかにいる。いつか僕は彼らを忘れてしまうのだろう。もう彼らに会うことができないと思い、夜な夜な病院のベッドの上で一人泣いていた。しょっぱく、ベタベタする水滴がシーツを染めていた。


 もう一度、眠りの中でいいから彼らに会いたい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る