蝶の羽ばたき
蝶の羽ばたきとは面白いものだ。世界の何処かで何気なく飛んだある蝶が周りまわって遠い地の災害を生む。些細なことでも連鎖さえすれば大きくなるのだろう。
一夜にしてクラウドファンディングの募金が壊れた。五桁で止まっていた募金が一夜にして二桁も増えたのだ。目の前の光景を疑った。夢ではないのか。しかし、幾ら再度読み込みをしても桁が減ることはなく、金額が増えている。部員一同何が起きているのかわからなかった。加えて、この事態に恐怖すら感じていた。
すると、そこに一本の電話が来た。
「高尾くん、資金は大丈夫になっただろう」
「館長さん、これはどういうことですか?」
「実はあの話を聞かせてもらって、それから何日かして映連の集まりがちょうどあったんだよ。そこでそのことを喋ったら、広がっちゃったようなんだよ」
「その映連?って何ですか?」
「映連は簡単にいうと映画館の集まりみたいなものだよ」
「映画館の集まり……」
「多分、これから映連の取材が来るかもしれないから頑張りなさいよ」
「本当にありがとうございます」
館長さんの言う通り、その後、映連の方々が取材に訪れた。制作の経緯、つばめについて、制作進度など様々なことを聞かれた。この取材の内容は連合の機内誌に載るらしい。さらにこのことが全国に広がる期待が大きく膨らんだ。
資金も十分に集まり、編集専門の業者さんを二名雇った。プロというものは僕たち高校生とは比べ物にならない手際の良さと時短テクニックを持ち合わせていた。撮影よりも編集が先行しそうな勢いだった。
撮影の方も資金が調達できたことで順調に進んだ。海の撮影もプライベートビーチの所有者から借りることで行えた。撮影場所への移動も楽になった。
これだけのお金の支援を受けているので、僕たちにプレッシャーがのしかかってきた。いいものを作らなければと部員同士の衝突も増えた。制作の方は順調に進むようになったのだが、気持ちよく作ることができなくなって来ていた。
「みんな少し苛ついていると思うけど協力しよう。この映画は何のために作っているの?お金をくれた大人たちのため?違う自分自身あるいはつばめのためでしょ」
こんな状況の時に僕はみんなを導いてあげないといけない。そんな気がした。つばめが居たらここまで部の雰囲気が悪くなることはなかっただろう。僕はつばめにはなれない。それでも僕はやらねくてはならないのだ。
「違いますよ。汗水垂らして作っているのは大輔さん、あなたのためです」
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