故人に会うために

 撮影は去年制作した映画のつばめの登場シーンを切り取り、それを元にシナリオを描いていった。つばめのご両親からの提供でホームビデオも利用しながら、つばめの思い出の地を撮影場所にして制作を進めている。


「どう、海水浴場の撮影許可って下りた?」

「大輔さん、厳しいっす。夏場の撮影は人が多くてどこも許可を出してくれません」

「そっちの映画館の方は?」

「こっちは半日二万円ほどでミニシアターが借りられます」

「二万円かぁ……」


 製作費確保のため、クラウドファンディングを行なってはいたが、二万円の額を一つ返事で払えるほど製作費は潤沢では無かった。


「下見も兼ねて直談判してくる。湊もついて来てくれ」

「ちょっと待って、この作業が終わったら……よし、行こう」


 電車に揺られ、撮影場所の候補であるレトロな町の映画館を訪れた。大通りから逸れた小道に蔦をまとったひっそりとした映画館。入ると感じる日本映画の全盛期から時が留まっているような雰囲気が生前の彼女はお気に入りだったらしい。今日は休館日だったが受付は空いていた。


「あのぉ、すいません」

「あぁ、お客さんかい。こんにちは」

「あ、こんにちは」


 優しそうなこの映画館の館長が杖を突きながら表まで出てきた。


「まだいつかはわからないんですけど、ここを撮影で使わせていただきたいと思っておりまして、少し見学してもよろしいですか?」

「見学はいいけど、何の撮影につかうんだい?」

「映画を作っていまして、この彼女に関する映画なんですけれど……」


 鞄から撮影交渉がスムーズに進むように作った資料を館長さんに手渡した。


「このお嬢さん、前までよく来てくれてたんだけど、最近は見なくなったね」


 奥から出て来た館長さんの奥さんが資料を覗き、寂しげに呟いた。


「実は彼女、一年前に病気で亡くなってしまって……」

「あら、そうだったの。若い人はここにはあまり来ないからよく覚えているよ。それにあんなに映画好きの人は大人でもそういないからね」

「お兄さん方、もしよかったらわしらにも何か手伝わせてもらえないか?」


 その後、館長さんとこの映画の企画、目的など話し合った。その結果、映画館を無償で貸し出していただけることとなり、さらに完成した作品の上映も行っていただけることとなった。また、製作費の状況を聞かれ、困っていることを伝えると、融資をすると館長さんは言ってくださった。

 つばめのお陰で制作の歯車が大きく動き出した。一年経っても僕たち映画製作部は彼女の存在がないと駄目なようだ。

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