活動開始

 高梨さんには特別な力があるのかもしれない。同好会員三人に想いを話してくれた時に感じた、先達者のような、それか、すべてを司るような雰囲気はあからさまに否定はできない。

 あの日、顧問の先生探しを行った僕たちはあんなに簡単に見つかるなんて思わなかった。また、その後に行った会員探しも同じだ。そして、翌日には同好会結成の届けを学校側に提出できた。全てが上手くいき過ぎていた。


「それじゃあ、五人目の会員になった小林 茜さんです」

「一年二組の小林 茜です。一年生は一人だけですが頑張りたいと思います」

「ありがとう。それじゃあ、茜ちゃん、この同好会についてだけど、私が会長のつばめでこっちが副会長の大輔」


 副会長という言葉を初めて耳にした。会員になった順で行けば僕が副会長なのは妥当なのだろう。しかし、僕は高梨さんから言い渡された覚えはないし、そもそも副会長という立場があったことも知らなかった。


「高梨さん、僕が副会長なんて聞いてないよ」

「あれ、そうだっけ」


 彼女は悪びれた様子もなく一年生に同好会の紹介を続けて行った。高梨 つばめという自分の中で勝手に神格化されつつある彼女を毛嫌い始めたのはこれが原因だったのかもしれない。僕は同好会が学校に認められて次々と会員数が増えている様子を横目に同好会の活動から離れて行った。そんな僕を高梨さんは見捨てた。

 僕が同好会に完全に参加しなくなった夏休み前には映画同好会は映画制作部となり、部活動に昇格していた。度々、僕の所へ初期メンバーの湊や仲俣さんが来ないかと誘ってくれるものの部長の高梨さんからは一切なかった。クラスでも席が前後だからといって会話があるわけでもない。ほんの些細なことが僕と高梨さんの心の差を大きく広げた。

 放課後、一人で教室に残って、勉強をしていた。この世界に僕一人しかいないと思える時間は僕の心を楽にしてくれる。そんな僕の世界に侵略者が入り込み、僕の後ろで机の中を漁っている。略奪を終え、教室を出て行く。また、静かな空間、自分だけの空間に戻れる。

 しかし、教室の扉を開けた後の足音が一向に聞こえない。


「ねぇ、大輔」


 僕は構わず勉強を続ける。


「最近、部に顔を見せないのは私が原因なのはわかっているつもり。あの時、しっかり大輔に一言言っておくべきだった。もう遅いかもしれないけどごめん、勝手に自分で大輔の気持ちも聞かないまま決めたりして。私は大輔と一緒に映画を撮りたい。夏休みから撮影が始まるからもしよかったら来て…………お願いだから本当に」


 そのまま、彼女は教室から出て行った。何故だろう、涙が止まらなかった。

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