恋愛未熟者

 近畿地方では高校球児の祭典が開幕した頃、映画制作は佳境に差し掛かっていた。映画のクライマックスを撮り終え、残す撮影日数はあと一日となった。部員たちの顔にも疲れの色が濃くなってきている。つばめの組んだスケジュールは最も現実的な過密スケジュールと言っても過言では無いほど、忙し過ぎてここ数日は映画制作以外に関しては何も手をつけられずにいる。何故、彼女がこんなにも焦っているのか全く想像できなかった。それでも部員や僕は彼女に何の違和感も覚えずに付いていった。

 翌日、全てのシーンの撮影を終え、学校で編集作業をしていた人も呼んで、部員全員で打ち上げを行った。


「みなさん、今日まで撮影お疲れ様でした。まずは監督を私と一緒に務めてくれた副部長の大輔。そして、主演を務めてくれた湊と美波。あと……」

「部長!みんな紹介する気?早く乾杯しようよ、待ってられない」

「ごめん、ごめん。それじゃあ、まだ、編集は残ってますがみんなお疲れ〜!」


 こうして何事もなく撮影が終わったことにホッとしている自分がいた。また同じく、明日から何も無くなってしまうことに怯えている自分もいた。夏休みの部活の予定は映画の制作のみで他の予定はない。編集が残っていると言っても撮影と同時進行でやっていたので二、三日すれば編集作業も終わってしまう。


「大輔、食べないの?」


 悲愴感に溺れていた僕につばめは浮き輪を投げてくれた。


「食べるよ。だけど、何かさ、もう終わりかぁと思うと少し寂しくなってきちゃって」

「そうだね。入ってくれた三年生もこれが高校最後の夏だもんね」

「うん……」

「映画を撮れるのも最後かもしれないからね?」

「え?」

「いやぁ、いつ死ぬのか、わからないから」

「まぁ、そうだけど……」

「ごめん、そんな悲しそうな顔しないでよ。ほら、食べよ」


 そんな明るく振る舞っている彼女からも何処か悲しげな雰囲気が出ていた。その雰囲気に手を突っ込んでしまえば、彼女が跡形もなく崩れ去ってしまうそんな感じもそこにはあった。

 もし、この時、彼女にこのことを伝えていたら彼女はどんな反応をしただろうか。僕にその本意を教えてくれただろうか。何故、僕はその雰囲気を異と思わなかったのだろうか。僕は何故、その後にあんなことを言ってしまったのだろう。あの時の自分の顔を殴りたい。


「つばめ」

「ん?どうした?」

「隣町の花火大会に行かない?」


 取り繕っていた笑顔がその瞬間、外れた。


「んー、そうだなぁ、予定が合ったらね」

「わかった」


 それから数日、彼女から連絡は一切なかった。あの打ち上げの日から約一週間後、家に顧問の先生から電話が来た。

















『高梨さんが亡くなった』

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