第8話 ガロの家族
ダンカンを倒したことでゴロツキ二人がダンカンをつれて逃げて行った。
「よし、それじゃあガロの家族に会いに行くか」
「あんた、どうする気だ?」
「あんたじゃない。先生。もしくはマナブ先生と呼べ。これはケジメだ」
教師と生徒、そのスタンスを崩す気はない。
「へぇへぇ。先生様よ。それで?どうする気なんだい?」
「まぁ会ってからだな」
路地裏のさらに奥。
スラム街の一角に隠されるように作られた入り口から中へと入る。
「あっ!ガロ兄、おかえり」
前歯の抜けて小さな女の子がガロの帰りを喜び手を差し出す。
「ミア、悪いな。食事はまだだ。ただ、今日は腹いっぱい食わせてやるからちょっと待て」
「腹いっぱい!まちゅ!!」
ガロが俺を見る。俺は頷いて食わせてやると右手で親指を立てる。
「ケイとアンはいるか?」
「ケイ兄はお腹痛いって寝てる。アン姉はケイ兄のために果物取ってくるって」
「腹が痛い?ちょっと見せて見ろ」
俺は買い物で買ったリンゴをミアに渡して、寝ているケイの場所を聞いた。
ケイは脂汗を流して苦しそうに呻いている。
「吐いたりはしてないのか?」
「してない」
質問にミアはちゃんと答えてくれる。
「そうか、熱があるみたいだな。腹の風邪か?とりあえずポーションで免疫力を上げて、よし。ガロ。もう一人の子を迎えに行って来てくれるか?」
「……ハァ~わかった」
ポーションを飲ませて多少は痛みがマシになったようで、ケイの容態は安定した。
ミアが4歳、ケイが5歳といったところだ。
ガロには似ていないので、捨て子なのだろう。
スラムではよくあることだ。身寄りのない子供たちが助け合って生きている。
「戻ったぜ」
果物を取りに行ったと言う最後の子は、7歳ぐらいの女の子でアンと言った。
「ガロ兄、この人は?」
「俺の先生だ」
「先生?」
「ああ、俺は冒険者になる。冒険者になって強くなるんだ。俺に冒険者になることを教えてくれる先生だ」
少し睨みつけるように俺を見るアン。
しかし、ケイの容態を見て安堵するような顔をになる。
「先生がケイを治してくれたの?」
「ポーションを飲ませた。少しは楽になるだろ」
「ポーション!!!あの高い薬???ありがとう。ありがとう」
アンは弟のことを本当に心配してたいのだろう。
素直に礼を言える子だ。
ガロは三人を家族として守ってきたんだろう。
「ガロ、家族はこれで全員か?」
「ああ、四人で力を合わせて生きてきた」
ガロ以外の子供はまだ幼く衛生面の悪い環境で生活を続けるのは厳しい。
子供たちを面倒見ながら、ガロを修行するのも難しい。
なら、預かってくれる場所に連れて行くしかない。
「ガロ、ちょっといいか」
「なんだよ」
俺はガロを外へと連れ出す。
「彼女たちを教会に預けようと思う。このままここにいても彼女たちのためにならない」
ガロは鋭い目つきで俺を睨みつける。
「家族と離れろってことか?」
「そうだ。お前が一人前になって彼女たちを育てられるようになるまで、俺の知り合いに預ける」
「知り合い?」
「そうだ。俺が信頼している人だ」
しばらく黙って見つめ合う。
「それを決めるのは俺じゃねぇ。あいつらにも相談する」
「わかった。だが、見てもいない物は相談できないだろ」
パチン
指を鳴らして四人を教会へ案内する。
「はっ?」
「えっ?」
「ふぇ?」
三人がそれぞれ驚いた声を出す。
意識を失って眠っているケイだけは俺が抱き上げていた。
「ほら、中に入るぞ。てか、めっちゃデカくなったな」
立派に建てられた教会の扉を開いて中に入ると、一人のシスターが祈りを捧げていた。
「ルルビア。邪魔するぞ」
昔馴染みの姿に声をかければ立ち上がってこちらを見る。
青い瞳が大きく。金色の髪の毛がシスター服の間から見えている。
立ち上がってこちらに視線を向けるルルビアは美しい女性に成長を遂げていた。
「えっ!シドーさん?シドーさんですか?」
「おう。久しぶり。五年ぶりか?」
シスタールルビアは驚いた顔で何度も、俺と俺が抱くケイを見比べている。
「あっあの。その子は?5歳ぐらいに見えますが、まさかシドーさんの?」
「うん?ああ、ガロ。来てくれ」
俺がガロを呼ぶと、恐る恐るガロやアンが教会の中へ入ってくる。
ミアはアンに手を引かれているが、アンの後ろに隠れてしまっている。
「四人も!!!」
「ガロ、こちらはシスタールルビア。恩師の弟子で現在教会の管理をしてくれているんだ。ルルビア、こっちは俺の生徒でガロという。
この子たちはガロの家族なんだが、ガロが冒険者として一人前になるまで預かってやってはくれないか?」
「おっおい!」
まだ、決めていないガロとしては勝手に話を進められては困ると止めに入る。
「アン」
「はい」
「ここに居れば飯は腹いっぱい食える。それに勉強も教えてくれて、病気になったら看病もしてくれる。
妹や弟たちを守りたいなら、ここ以上の環境はない。
それにガロが一人前になればお前たち家族だけで住んでもいい。しばらくの辛抱だ」
この場で一番意思を持ち、家族のことを考えているアンに俺はどうしてここに連れてきたのか説明をする。
「……シスター」
「はい」
アンは決意を込めた瞳でルルビアを見た。
ルルビアはすぐに状況を理解してくれたみたいで、案の問いかけるに慈愛に満ちた瞳で応える。
「弟や妹は、毎日ご飯をお腹いっぱい食べられますか?」
「弟さんや妹さんだけではありません。あなたもいっぱいご飯が食べられますよ」
「もう盗みをしないでも、勉強したら働けますか?」
「勉強して、身体を健康にすれば働くことができます」
「危険なことから、守ってくれますか?」
「ここを家だと思ってくれて構いません。ここにいるみんながあなたの家族で、あなたを守ります。
そして、あなたたちは軍神の加護を得ました。
誰もあなた方を害することはないでしょう」
アンの質問一つ一つにルルビアは丁寧に回答していく。
質問をするたびに、アンの瞳からは涙が流れこれまでの苦労が伝わってくる。
「ガロ兄。私たちはここにいる。だから、早く強くなって迎えにきてね。もし、ガロ兄が怪我して戦えなくなったら、私がいっぱい勉強して働いて面倒を見てあげる」
アンはガロよりも強い気持ちを持っている。
「へっ、俺は冒険者の才能があるんだ。すぐに強くなって迎え来てやるよ」
二人は照れくさそうに笑い合う。
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