第20話 連携
ハーフラインからの依頼を生徒たちに伝えて、そのために必要な準備に入ることを伝えた。
「つまり、私達四人でグレートモンキーを倒すんですか?」
最年長であるディーが手を上げて質問してきた。
「そうだ。現在、四人のレベルは全員が10を超えている。だが、グレートモンキーはレベル30だと言われている。本来はパーティーの平均レベルが25はないと厳しい」
「じゃあ、レベル上げをするんですか?」
「そういうことになるな。ただレベル上げるだけじゃパーティーとしての意味がない。そこでそれぞれの戦闘スタイルを理解することでより連携の質を高める必要がある」
ミッション達成までの期間が10日ほどしかない。
それまでにグレートモンキーを倒す必要があり、その前までにレベルを上げる必要がある。
「レベル25ですか、Bランク冒険者の最低条件には丁度いいですね」
「Bランク?ディーの兄貴。Bランクってスゲーのか?」
「ガロはまだ冒険者登録をしたばかりだったね。本来一人前と言われるDランクで、だいたいレベル10なんだ。Cランクでレベル20に到達できるかどうか、20を超えると極端にレベルが上がりにくくなって25ならBランク相当だと言えるね」
ディーはこの臨時パーティーのリーダーとして、魔法だけでなく冒険者のイロハを勉強している。
生徒が自主的な成長を遂げていて、これほど嬉しいことはない。
「そうだ。本当はお前たちを一か月で一人前の冒険者つまり、最低条件レベル10に俺は設定していた。だがお前たちは俺の想像よりも成長が早く二週間でレベル10に到達して、それぞれのスタイルを見つけつつある」
ディーはアイススライム以降は中級魔法使い訓練以外にも自分でダンジョンに潜って、魔法と弓術の訓練を続けている。そのため現在はレベル15に到達していた。
ガロはディーに付き合うようになり、シーフとして索敵や探索。罠の察知や宝箱の解除方法なども本で読んだことを実践で試すようになっていた。最近は短剣術も覚えつつあり現在はレベル12。
セシルは、盾術を教えてからはまだ日が浅いのでレベルこそ10ではあるが、伸びしろだけで言えば一番だと言える。補助魔法に盾術は熟練度を上げれば上げるほど役に立っていくものだ。
リリアは元々レイピアを使った剣術ではあるが、さらに一週間走り込んで足を追い込んだのが見て取れる。まだまだ粗は見えるが、レベルは11だ。
「効率よくレベルを上げるダンジョンに向かう」
「そんな都合がいいダンジョンがあるのかよ先生?」
「ある。ただ、今のお前たちにとって連携が大切になることだけは言っておこう。さぁ準備をしてこい」
「はい!」
ガロの質問に答えて準備を促せば、ディーとセシルが立ち上がって早々に準備に取り掛かる。
ガロは元々軽装なので、そこまで急いでではないが、立ち上がって会議室を後にした。
「リリアはいかないのか?」
「先生。もう一度テストをしてくれませんか」
一人残ったリリアは真剣な目で俺を見る。
ガロに続いて、セシルも初級試験を合格したことを聞いたのだろう。
少し焦りを感じるような顔をしている。
「いいが、今のお前に突破できるのか?」
「出来ます」
覚悟を持った瞳に俺は頷いて庭に出た。
「いくぞ」
「いつでも」
この間のように足払いを警戒して、踏ん張る姿は見せない。
あくまで自然体でリリアは俺がいつ攻撃してきてもいいように足の力を抜く。
俺はタイミングを待ってリリアを見つめる。
屋根から落ちる水滴が地面に落下を開始する。
水滴がリリアの頬に着弾した瞬間、屈んで足払いを開始した。
しかし、そこにリリアの足はなかった。
構えるでも、受けるでもない。
避ける。
リリアの出した答えに俺は嬉しくなる。
「見事!」
リリアの剣が俺の喉元に突き立てられる。
「戦いに卑怯は無い。それはどんなことをされても対応できる力が必要ということ。そして、何が起きても対応できるということは、全てのことに神経を研ぎ澄ませる必要があることです」
俺が何かを教える前にリリアは答えを出した。
「そうだ。戦いとは会話じゃない。いくぞと言って始められるのはスポーツだ。
冒険者が突然、背後や地面の中から襲われることもある。そのたびに卑怯だと言って殺さていたら命などすぐになくなってしまう。
リリアに必要な力は対応力と応用力だ。
君の剣は強い。強いが故に固い。
基本に忠実過ぎて読みやすく、躱されやすい」
俺は両手を上げて降参する。フリをして拳をリリアに向けようとして、リリアが一歩引いていることに気付いた。
「わかっていたのか?」
「いいえ。でも、警戒して今の先生ならと考えました」
俺は今度こそリリアに拍手を送る。
「アタッカー初級試験合格だ。今のお前ならすぐに倒すことは難しい」
「ありがとうございます」
リリアはホッと息を吐いた。
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