第4話 魔法使いへの初級指導 実践編
三日間の座学訓練による魔素の確認。
三日間の弓の訓練による矢のイメージ。
二つの課題をクリアしたディーには、一週間を終えた最終チェックとして実践を経験してもらう。
「今日は初級ダンジョンに挑むぞ」
「えっ!でも、僕はまだ教えてもらっている段階ですよ?」
「ディー、お前ももうわかっているんじゃないか?魔素を感じるようになったことで、体内に保有できる魔力の消費が少なくなっていることに。
そして、一撃一撃の威力が向上していることに気づいているだろ?」
普通の魔法使いは己の魔力を無理矢理使って魔法を発動させている。
そのため魔力消費の燃費が悪くて、すぐに魔法が使えなくなる。
レベルが上がれば、自然に保有量が増えて魔法を打てる回数が増えるが威力が上がるのもレベル頼りだ。
だが、魔素を感じ、体内魔力だけでなく。
外気に存在する魔素を使うことで、体内の魔力消費は少なくなり、魔素の力を借りるので威力も上げやすくなるのだ。
「……まだ、自信は持てませんが。先生の教えを実践したいと思っていました」
ディーも男だ。
強くなりたい。
覚えた技を使いたい。
そう思うのは自然のことなのだ。
「よし。なら行くぞ。最初の相手はスライムだ」
「スライムですか?でも、奴らは棍棒で叩いても倒せるぐらい弱いですよ。そんなの相手にしてもレベルが上がるわけでもないし」
「くくく、確かに初級ダンジョンに現れるスライムは弱いな」
「でしょ?じゃあやる意味が」
「だが、それだけじゃない」
パチン
「寒っ!」
場所を移動すると、ディーが震え出した。
「ああ、悪い悪い」
パチンともう一度ならして、ディーの周りの温度を適温へ調整する。
「へっ?」
「悪かったな。移動した先の温度まで考えて無かった」
「ここって、雪?」
「おう。ここはアイス王国だ。この辺は体感温度マイナス30度だな。普通に息も凍るぞ」
「凄い綺麗ですね」
真っ白に染まった草原が丘の上から見下ろすことが出来る。
全てを白く染める雪と氷の世界。
「だろ。この国のダンジョンに現れるスライムが今回の標的だ」
「本当に初級スライムなんですか?」
「おう。この国じゃ初級も初級、アイススライムダンジョンだ」
パチン
ダンジョン内へと直接移動する。
さっきはディーにアイス王国を見せたくて丘の上に転移した。
「ここが?」
「おう、ダンジョンだ。見てみろ」
丁度近くを通るアイススライム。
本来ゲル状のスライムがカチコチに凍った状態で、氷の上を滑っていく。
見た目にはデカい氷の塊でしかない。
「うわ~凄く硬そうですね」
「だろ?棍棒で倒せそうか?」
「僕の力じゃ無理です」
「くくく、そうだろうな。だけどな、あいつらの弱点はファイアー系の魔法なんだ」
アイススライムは極寒の地で生きるために、身体を凍らせることで環境に適応した。
だが、対応したが故に弱点が浮き彫りになってしまった。
「あいつに向けてファイヤーアローを打ってみろ」
「はい!」
アイススライムは動きも遅く。
物理防御力が高くなってはいるが、魔法耐性は弱い。
「いっけー!」
気負いを込めた一撃が放たれてアイススライムへ直撃する。
「よし」
一撃でスライムを貫通したファイアーアロー。
「えっ?レベルが上がった?」
「ディー、お前はレベル1だったからな。一人で魔物を倒せば簡単にレベルが上がるぞ。ここの一階層をクリアできたなら、レベル10ぐらいには成れる」
「えっ?スライムでレベルアップ?」
「お前は知らないだろうがな。
魔物を倒すと魔物の生命力が魔素として排出されるんだ。
その魔素を倒した者がより多く吸収出来るようになってる。
そして、今までのお前は仲間の後ろに隠れて、戦闘に参加しても居ない状態だった。
だからレベルを上げるための魔素が吸収できていなかったというわけだ」
魔物を倒すとレベルを上げることが出来る。
それは広く知られている事実だが、どうしてレベルが上がるかまでは知られていないことが多い。
「つまり、僕は自分の力で、自分一人で魔物を倒したからレベルが上がったんですか?」
「まぁレベルが低い間は弱い魔物を一人でも倒せるからそれでもいいんだが、強い魔物になれば危険も増える。だから仲間を作れ。冒険者を続けるならな」
「本当に先生はなんでも知っているんですね」
「おいおい、なんでもは知らないぞ。
俺が知ってるのは冒険者にとって必要なことだけだ。
だから俺は冒険者の家庭教師なんだろ?」
「そうでしたね」
それからディーと共にアイススライムを倒しながら一階層をクリアした。
「僕が一人でダンジョンを突破できた」
「お前は魔力の使い方をわかってなかった。
だから無理矢理魔力を消費して、威力の無い魔法を使うことで自信の保有魔力を消費してしまっていたんだ。
今はレベル10まで上がって魔力消費も威力も上がっている。
これぐらいはしてもらわないとな」
喜ぶディーとハイタッチをする。
「それになディー。お前は炎使いの才能があったようだ。ファイアーボールを使ってみろ。今のお前ならイメージできるだろ?」
ディーはこれまで努力だけはしてきた。
足りなかったんは知識と、実戦経験だ。
魔法の基礎を知り、一人でスライムを倒したディーはもう一人前の魔法使いだ。
「はい!」
瞑想するようにディーが体内の魔力を体外へ放出する。
ファイヤーアローとは別の形状にするために、少々苦戦するが、掌サイズの炎の玉が浮かび上がる。
それに魔素を組み合わせて形を作り出す。
「先生!出来ました!」
「まだだ!お前はそれを放っていない。丁度スライムが来たぞ」
ディーは俺が指示する方向へファイアボールを放った。
それまでよりも大きなアイススライムがディーのファイアボールの一撃で倒される。
「僕の魔法で倒した?」
「そうだ。これでお前は魔法の基礎卒業だ」
ディーは一階層のフロアボスである、ビックアイススライムを一撃で倒せるほどの魔法を手に入れた。
「さぁドロップアイテムを拾うぞ」
アイススライムからは、氷石と呼ばれる石がドロップする。
簡単に説明すると溶けにくい氷だ。
「おお、結構デカい魔石だな」
さらにビックアイススライムが、青色の綺麗な魔石をドロップした。
「お前の物だ。初討伐おめでとう」
涙を浮かべるディーの頭をワシャワシャと撫でてやる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます