第5話 酒場の乱入者
初級ダンジョンとはいえ初討伐を果たしたディーと共に祝いを兼ねて酒場にやってきた。
「ディー!改めてよくやった!今日で、お前は魔法使いとして一人前になった」
エールが入ったコップをディーと乾杯する。
ディーも照れくさそうにしていたが、その顔は綻んでいた。
「たった一週間で僕が魔物を倒せるようになるなんて!しかもこんな大きな魔石を手に入れられるようになんて、先生!!!本当にありがとうございます」
「バカやろ。まだまだ教えることはたくさんあるんだ。魔法使いとして一人前にはなったかもしれないが冒険者としてまだまだだ」
「はい。これからもご指導のほどよろしくお願いします」
二人で気持ちよくエールを飲んでいると、デカい図体をした男が席に近づいてくる。
「うん?なんだなんだ。役立たずのディーじゃねぇか?」
「バッツ!どうして?ここに?」
「あぁ?俺様がどこで食事をしようと勝手だろ。
そんなことよりも、落ちこぼれのお前がどうしてこんなところにいるんだよ。
一人で魔物も倒せないような奴がこんなところで飲んでんじゃねぇよ」
バッツがテーブルを叩いて、料理の皿がテーブルの下へと落ちてしまう。
「おいおい、バッツ。店の人に迷惑だろ」
俺はバッツを注意するために声をかける。
「あぁ?なんだお前?うん?どこか見たことあるな。あっ、お前初心者講師のシドーじゃねぇか。
なんだお前どうしてディーと?はっ、おいおいディーお前知らないのか?
まさかシドーに習ってるとかいわねぇよな?
こいつは冒険者ギルドをクビになった役立たずだぞ」
大声を出して笑い始めるバッツ。
初心者の頃は、小心者だったこいつが随分と偉そうになったものだ。
「なんだよ。落ちこぼれと役立たずのコンビかよ。
こりゃお似合いじゃねぇか。
ガハハハ!女を引っ掛からねぇから、男同士で乳繰り合ってのか?キメェキメェ」
俺が立ち上がろうとするとディーが席を立つ。
「僕のことは良い。でも、先生のことを笑うな!先生は凄い人なんだ」
酒が入り、怒りに任せてディーが炎の鳥を作り出す。
ファイヤーバード
炎系魔法の上級魔法を出現させるディーにバッツは尻餅をつく。
「なっ!なんでお前がそんな魔法使えるんだよ?!どんなズルいをした!!!」
バッツは信じられない物を見る目で後ずさる。
「ディー、やめろ。無暗に魔法を使うな」
俺は殺気を込めてディーを威嚇した。
ディーも俺から殺気を向けられるとは思っていなかったのか、驚いて魔法を消して席へ座り込む。
まだ、魔素との連結が完了する前だったので大事に至ることはなかった。
本来の魔法保有量で絶対に作り出せない上級魔法。
魔素の力を借りて作り出す才能。
やはりディーは凄い奴だ。
「なっなんだよ。結局コケ脅しじゃねぇか。どうせ今のもマグレなんだろ。脅かすな。この落ちこぼれ野郎が」
バッツは捨て台詞と共に逃げ出していく。
「ディー、俺のために怒ってくれたこと感謝する。お前は良い奴だ」
「先生……すみません。我を忘れて」
「構わんさ。お前がバッツに理不尽に扱われていた姿は俺も見た。いつか見返してやろうぜ。
その前にお前には冒険者として、心を一つ教えておく」
「……はい」
落ち込むバッツの頭を撫でる。
「ディー、どんな状況でも魔法使いは一番冷静でいなくてはならない。
接近戦で戦わない魔法使いは最後尾で冷静に状況を判断して作戦を考える余裕を持つ必要がある。
怒りは最も冷静さを奪う感情だ。
お前がバッツに様々な思いを持っていることはわかっている。
そして俺のことを大切に思ってくれいることは嬉しい。
だけど、お前には優しく冷静な魔法使いになってほしい。分かるか?」
俺の言葉を噛みしめるようにディーは目を閉じて大きく息を吐く。
「はい。僕は冷静さを欠いていました」
「ああ、お前は一人前の魔法使いとして、一歩を踏み出した。
だが、その力を間違った方向に使ってはいけない。
復讐は間違った使い方だ」
「じゃあ、どうやってバッツを見返すんですか?」
「バッツなんて小物だ。本当は気にする必要もないんだ。
どうしてもお前がバッツを見返したいなら、バッツよりも凄い冒険者になれ」
俺はディーが手に入れた魔石を手渡す。
Eランクになったばかりのバッツでは到底倒せない魔物をディーは倒すことが出来たのだ。
本当ならば、もうバッツなど抜いていると言ってやりたい。
だけど、目に見えてバッツよりも上だと思えなければディーは納得できないだろう。
「ディー、Bランク冒険者になれ」
「僕がBランク?!そっそんなの無理です」
「無理じゃない。一流と言われるBランクだが、あいつらが使う魔法は上級までだ。お前はすでに上級魔法を使うことが出来る。だから、それを操れる魔法使いなれ」
俺はもう一度、ディーの頭に手を置く。
「冒険者専門の家庭教師である俺が教えるんだ。自信を持て」
「……はい!僕はBランクを目指します!」
「ああ。その意気だ」
俺は拳をディーに向ける。
ディーは俺の向けた拳に自分の拳をぶつけた。
これは男の誓いだ。
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