第6話 見習い魔法使いは見習いを卒業する
昨晩の誓いを早速実行するために、俺はディーが手に入れたドロップアイテムを報酬にすることを提案した。
「報酬にするんですか?」
「ああ、魔石は魔導機器に必要不可欠な素材だ。ビッグアイススライムの魔石はかなり大きい。それに冷却効果まで期待できる。それを冒険者ギルドに報告して報酬としない手はないからな」
始めて倒したフロアボスだっため、ディーは記念として取っておきたいようだが、これからいくらでもフロアボスを倒すことになるのだ。
「何より、その魔石をどこよりも高値で買い取ってくれるところがあるんだ」
「必要としてくれる人がいるってことですね」
「そうだ。冒険者は魔石を集め、ドロップ品を市場へ供給する。危険な仕事する代わりにそれに見合った報酬をもらう必要がある」
「わかりました。これを必要な人に」
ディーが承諾してくれたので、俺はさっそく移動をすることにした。
パチン
「暑い!」
「ははは、この間との落差が凄いだろ」
「今度は砂漠?僕、初めて見ました。それにしても先生はなんでもありですね」
「なんでもありじゃねぇよ。行ったところしか行けねぇからな。それよりいくぞ」
アイテムボックスから日避けのマントをディーに渡して歩き出す。
マントは暑いが、日避けのマントを被らなければ、後でとんでもないことになってしまう。
「どこに向かうんですか?」
「もちろん、冒険者ギルドだ」
「えっ?」
現在の冒険者ギルドは国を超えて仕事が出来るようになっている。
別に自分が登録している冒険者ギルドでランクを上げる必要などない。
俺がディーを連れてヒートアイランドの冒険者ギルドに入ると、妖艶な衣装に身を包んだ受付嬢が出迎えてくれる。
「うわっ!踊り子さんですか?」
「アホか。日の当たらないところに入ったから、少しでも涼しい恰好をしているだけだ」
魔導機器を使おうにも魔石が必要になる。
また、魔導機器に使われる魔石はかなり特殊な部類に入り、ヒートアイランドでは手に入りにくい。
「本日はどのようなご用件ですか?」
「こいつのランクを上げにきた」
「えっ?ランクですか?」
「そうだ。冒険者ランクを上げて見習いを卒業させる」
冒険者ランクを上げるためには、いくつか査定内容が定められている。
F:見習い
街の中や命の危険が低い薬草採取などの仕事を30件。
もしくは魔物一体の討伐を一人で成し遂げる。
そうすることでランクを上げられる。
E:半人前
指定の依頼を一人もしくは複数人で10件。
もしくは、指定の魔物素材を獲得する。
Dランク昇格まで視野に入れている。
そのためのビッグアイススライムだ。
「これは、確かに!ビッグアイススライムの魔石ですね!」
ヒートアイランドには生息していないアイススライムの魔石やドロップ品はかなりの高額取引が見込める。
また、Dランクへの昇格試験の指定魔物素材にも定められている。
「確かに確認させて頂きました。ですが、本当にそちらの魔法使いの方が一人で倒したのか確認をさせていただきたいと思います」
「ああ、ディー冒険者カードを提示しろ」
「はい」
冒険者カードにはこれまで魔物を倒した戦歴が記録される。
ディーが倒したことがある魔物はアイススライムとビッグアイススライムだけなので、調べるのは簡単だ。
「確かに倒した戦歴が刻まれています。それで昇格の手続きに入りますので少々お待ちください」
一週間前まで、スライム一体を魔法で倒すことができなかった魔法使いが、Eランクに昇格してしまう。
「こんにも簡単なことなんですね」
「簡単じゃねぇよ。一週間前のお前なら一ヶ月続けても一年続けてもEランクに昇格すら難しかっただろうな。だけど、今のお前はDランクになれるつまり一人前の冒険者として認められるということだ」
D:一人前
C:プロ
B:一流
A:超一流
S:人災級
SS:災害級
SSS:天災級
それぞれにランクを上げるためには査定基準があり、ギルド職員として働いていたのでその辺は熟知している。
「まずは、冒険者ランクDランク昇格おめでとう」
「あっありがとうございます」
手続きを終えて冒険者カードの表示がDランク表示されるようになった。
「僕がDランク……なんだか実感が」
「実感なんてこれからいくらでも味わえるさ。Dランクになれば依頼される内容も多くなる。何より、一人前の冒険者として認められるようになるんだ」
「なんだか急に肩に重みがかかった気がします」
「おう、それがプレッシャーだな。そのプレッシャーを撥ねのけるためにより高見を目指す努力が必要になるんだ」
まだまだ魔法使いとして基礎を習得したに過ぎない。
これから中級編、上級編とディーを鍛えていく。
家庭教師として、ディーがどれだけ成長を果たすのか楽しみで仕方ないぜ。
「さて、次はCクラスになるために、二つの準備をしないとな」
「準備ですか?」
「そうだ。まずは、中位の魔物を討伐する。そのために魔法の練度を上げるだ」
「魔法の練度?」
「そうだ。お前は炎の魔法に適正がある。だが、魔法の基礎理論を理解したに過ぎない。そこからは応用編が待っているんだ」
俺は弓矢の訓練の時のようなファイヤーボールを出現させる。
「あっ、消えないファイアーボール?」
「そうだ」
本来、ファイアーボールは一定距離離れるか、対象にぶつかると消滅してしまう。
だが、ディーが行ったように操作できるなら、どれだけの距離が操作できて、対象にぶつけても消滅させずに次の相手にも攻撃できるとしたら。
「凄いっ」
「だろ。そのために魔法のコントロールを覚えてもらう」
「はい!」
「基礎の時のようなズルは出来ないからな。これは日々の訓練が成果に表れるぞ」
俺は全身に魔力を行き渡らせて、魔力で肉体強化した状態を作り出す。
「魔力は見えているか?」
「はい。赤い魔力が先生の全身を包み込んでいます」
「よし。これと同じことをやってみろ」
「えっ!」
「やり方はファイヤーアローと同じだ。体内に内包する魔力を全身に巡らせる。そこから対外の魔素と連結して魔法として、肉体を強化するイメージを作り出すんだ」
言うのは簡単だが、実践すればこれがどれだけ高度なことをしているのか理解できる。
「ぐっ!ハァハァハァ」
「1秒も保たないか。まぁそんなもんだろ」
汗だくで倒れるディーは、説明をする前から全身に魔力を巡らせていた俺を見てただただ呆然と見つめるだけだった。
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