第3話 魔法使いへの初級指導 後編
三日間の座禅訓練を終えてディーは魔素を感じることができるようになった。
まだまだボンヤリではあるが、魔法使いにとって魔素を感じられるか感じられないかによって魔法の威力が変わってくる。
「次は何をするんですか?」
「次はイメージを固める訓練だ。魔法にイメージが大切なことは事実だ」
だが、ただイメージだけはダメだ。
より強力に、より明確なイメージが必要になる。
なんとなく矢を放つだけで、ファイヤーアロー本来の威力を発揮できない。
「ファイヤーアローには二つのイメージが必要だと伝えたな」
「はい。矢が飛ぶイメージと炎が燃えるイメージですよね?」
「そうだ。矢が飛んでいくのを見たことは?」
「ありますよ。冒険者の訓練所で練習している人は見たことあるので」
「なら、実際に飛ばしたことはあるか?」
「えっ!魔法使いの僕がですか?」
「そうだ」
亜空間から弓と矢を取り出す。
初心者でも弓を引きやすいように改造した。
「本来、矢が飛ぶと言われても、ただ飛んでいくわけではない。
矢は性質に応じて、風の抵抗を受けて的へ向かう。
距離が離れれば離れるほど命中されることは難しくなる。
それは魔法でも同じだ。
ファイヤーアローを的に命中させるためにはイメージが大切になる」
弓を構えて、的をへと放つ。
真っ直ぐ飛んでいった矢は的の中央へ命中した。
「先生、弓も使えるんですか!!」
「当たり前だろ?俺は家庭教師だぞ」
「いやいや、そんな家庭教師いませんよ」
「そんなことはどうでもいい。お前もやってみろ」
「えっ僕がやるんですか?」
「そうだ。実践することでイメージは強く固定されるやすくなる」
ディーに弓の構え方、正しい放ち方からレクチャーを開始する。
やったことが無いということもあり、癖がなく基本を忠実に再現する。
「うわっ!当たった。先生。僕でも当たりました」
「当たり前だろ。誰が家庭教師してると思ってるんだ。
基本を守って力加減さえ間違えなければ弓は強力な武器になる」
もしも魔法使いが魔法を放てなくなっても、弓がディーの武器になる。
「確かに、僕は魔法にこだわり過ぎていたのかもしれません。
弓から矢を放った瞬間。攻撃をしているって実感がありました。
何より手のシビレが力がいるんだと実感できます」
それから矢を放ち弓の訓練を続ける。
一日中練習していると、暗くなり的が見えなくなった。
「よし、弓を撃つことに慣れてきたな」
「はい。魔法を使うのとは違って身体はヘトヘトです」
「魔法使いと言っても日頃から肉体の鍛錬は必要になる。それも良い訓練だ」
夜になって食事と取り、筋肉の疲労取るためにポーションを飲ませておく。
ポーションの原理は、治癒能力の向上をメインに行うため、睡眠時に取ると回復率が上がってくれるのだ。
「二日目も弓をするんですか?」
身体の痛みは回復したが、昨日の疲労感からディーは及び腰だ。
「もちろん。だが、昨日よりも難易度を上げるぞ。次は動く的を狙え」
そう言ってファイヤボールの魔法を発動させて空へと浮かび上がらせる。
「えっえっ?なんですこれ?ファイアーボール?浮いてる。しかも消えない?」
「そんなことはどうでもいい。詳しい原理は中級編で教えてやる。
今は弓をファイヤーボールに当てることに集中だ」
「はい」
ディーは素直な子だ。
言われたことを真面目に受け取り、真剣に取り組むことが出来る。
一日で弓を放てたのは才能があるからだ。
弓の才能があろうと、本人が目指す職業が魔法使いなら、その背中を押すのも教師の役目だ。
「先生、難しいです!」
「だろうな。矢はイメージでコントロールが出来ない。つまり、相手の動きを予測する必要があるということだ。
矢の飛んでいく速度。
風の抵抗を受けて曲がる角度。
そして、相手が次に取る行動の予測。
それらを瞬時に行わなければ的には当たらないぞ」
弓と矢を取り出して、ファイヤーボールの軌道を予測する。
ランダムで飛ぶ用にしているボールを矢が貫いた。
「うわ~スゲー」
「まぁこんなもんだ。やってみろ」
その日、一日ディーは弓を放ち続けたが当たることは無かった。
弓を打ち始めて三日目。
「先生、ファイアーアローを打ってもいいですか?」
ディー自ら炎の矢でファイアーボールを狙いたいといってきた。
「当てるイメージがあると思っていいんだな」
「はい。昨日一晩考えました」
「よし。やってみろ」
ディーは弓を持っていないのに弓を引くようなポーズを取り、その中にファイヤーアローが生み出す。
それはこれまでのディーが作った中で一番大きく綺麗な光を放っていた。
「いきます!」
放たれたファイヤーアローは、ランダムに動き続けるファイヤボールを捉えたかに見えたが外れてしまう。
「まだです」
だが、外れたはずのアローの軌道が直角に曲がってファイアーボールを捉えた。
「ほぅ~追尾、いや操作か?」
「はい。矢が飛んでいくイメージが出来るなら操るイメージもできるんじゃないかって」
「ふむ、炎が燃えるイメージを教える前に操るイメージを自分で上乗せしたのか、やるじゃないかディー。何より威力も衰えていない」
「はい。二日間弓を持ったことで、矢を放つイメージは考えなくてもできるようになりました。魔法を生み出し弓を使うイメージ。矢は操るイメージ。一つ一つが別々の物だと思うと難しく思えますが、それらが一つの流れだと思えば」
どうやらディーの初級編は卒業を迎えられそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます