第2話 魔法使いへの初級指導 前編
仲間の冒険者からパーティーを追い出されたディーは帰る場所もないということで、俺は自分が借りているアパートへと連れて帰った。
「先生、一晩泊めていただきありがとうございます」
駆け出し冒険者であるディーに衣食住の提供をする。
住み込みの生徒だと思えば可愛いもんだ。
それも一週間ほどで元が取れると俺は考えている。
「うむ。ディー、お礼を言うことは一生忘れるな。
礼を言う。
謝罪をする。
挨拶をする。
人として当たり前のことを当たり前に出来る奴になれ」
最初の指導が挨拶や礼などの礼儀であることは人付き合いで絶対に必要になる。
「はい!おはようございます」
「おう、おはよう」
魔導冷蔵庫から食材を取り出して簡単に朝食を作っていく。
今日のメニューは暴れイノシシのベーコンと軍鳥の卵を使ったハムエッグに、硬い黒パンをスライスしてスープに浮かべた。
「うわ~僕らがいた安宿の朝食より豪華です!」
「そうか?まぁ野菜不足にならんように、昼間に買い物にいってくるか」
「旨っ!この料理、その辺の料理屋よりも美味いです」
「こら、食事を取る前にも挨拶だ。食材や作ってくれた者へ感謝を示すんだ」
マナブは両手を合わせる。
「いただきます」
「いただきます?」
ディーはマナブに習って手を合わせる。
「よし。美味いだろ?マヨは自家製だからな」
朝食を済ませると、座学から始めることにした。
「いいか、ディー。お前が師匠にどんなことを学んだのか俺は知らない。だけど、全て忘れろ」
「えっ?!」
「魔法使いって奴らはバカが多い。
あいつ等は天才なんだよ。魔法も感覚で出来ちまう。
だから、追求なんてしないんだ。
ましてや冒険者をやるような魔法使いに碌な奴がいない。
魔法使いでマトモな奴に会いたいなら魔法学校に行くか、魔塔の試験でも受けることだ。まぁそこに居る奴らも研究者として変人ばっかりだろうけどな」
一人の知り合いを思い浮かべて少し笑ってしまう。
「魔法使いを悪く言わないでください」
「別に悪くは言ってないさ。俺は事実を述べただけだ」
「む~」
ふくれ面をするディーは面白いが、それでは話が進まないので、俺は指を鳴らす。
パチン
「えっ?」
そうすると先ほどまでアパートの中にいたはずなのに、景色が代わって岩場へと移動する。
「これは転移魔法って言ってな。めちゃめちゃ高位の魔法だから誰にも言うなよ」
「えっえっえっ!!!先生!!!凄い魔法使いだったんですか?」
「違ぇよ。俺は魔法使いじゃねぇ。家庭教師だ。
家庭教師が生徒に教えるのに、これぐらい出来ないでどうするよ。
ほら、今から実演しながら座学をしていくから、よく聞けよ」
転移魔法を使ったのは、単純に場所を移動するためだけでなく。
こちらの話にディーを引き込むためだ。
男ってのは凄いことをされると、それだけで対抗するか、尊敬出来ちまう。
「いいかディー。魔法には魔力が必要だな?」
「はい。人には魔力が保有されていて、レベルに応じて魔力量が増えると習いました」
「うむ、ディー。教えられたことは全て忘れろといっただろ。その考えが間違っているんだ」
本当にこの世界の魔法使いはどうしようもない。
一部のまともな魔法使いたちも、わざわざ他者に自分の知識を教えることはないので、野良魔法使いは偉そうになって間違った知識を広めやがる。
「えっ!これは僕の師匠だけでなく、世界の常識ですよ。それが間違っているって」
「ハァ~とにかくお前は俺の生徒だろ?なら、俺だけを信じろ」
「……わかりました」
ディーは戸惑った顔をしたが、先ほど見せた転移魔法の影響で、多少は聞く耳を持つようになっていた。
「よし。なら、座学を始める。
まず、魔法を使うためには魔力が必要だ。
だが、魔力とは人間が保有しているだけではない。
むしろ、人間が保有している魔力なんて微々たる物で、それだけでは魔法は発動しない」
「はぁ~~??」
「ディー、驚いてばかりいては話が進まないぞ。まずは俺の話を聞け」
「はっはい!」
かしこまって、ディーは真剣な顔で俺の話を聞く姿勢を取る。
「魔力とは、大気や地面、水の中、溶岩の中、もちろん人の中や魔物の中にも存在いしている。これらを魔素と言う」
「魔素?」
「そうだ。魔法を使う魔力の源ということだ。
そして、人は空気を取り込む際に魔素を体内取り込めるようになっている。
それらを魔法へ変換することで魔法を作り出すイメージを作り出すんだ」
驚いてはいるようだが、ディーは声を出すことを止めて何度も頭を上下に動かして話を聞こうとしていた。
「だが、これでは魔法を作り出すことは出来ても放つことが出来ない」
目の前で炎の塊を作って霧散させる。
「!!!」
ディーは心当たりがあるようで、自分の手やイメージしたことを思い出そうとしていた。
「そこで大気中にある魔素と自分が作り出した魔力を繋ぎ合わせ、魔法を作り出すんだ」
ディーにも見えるように、大気中の魔素に色をつける。
左手に緑色の魔素を見えるようにして、右手で作り出した魔法を赤とした。
「このままではすぐに魔法は消えてしまう。それを体外の魔素と合わせる」
出来上がったファイアーボール、魔素と重ね合わせることで炎に形が出来る。
「そして、ここから放出する必要がある。それには矢が飛ぶイメージと、もう一つ炎が燃えるイメージが必要になる」
ファイヤーボールを弓のような形を作り、弓を弾いて矢を作り出す。
「いくぞ」
作り出したファイヤーアローを岩へと放つ。
高速で飛んでいく矢が岩を貫き。
貫かれた岩は貫かれた穴から溶けていく。
「どうだ?」
「凄い威力です!僕のファイヤーアローとは全然違う」
「別に何も違わないさ。お前は他者が作ったファイヤーアローを模してイメージを作り出した。なんとなく魔力を注いで魔法を完成させていた。違うか?」
「違いません。習った時は師匠がファイヤーアローを見せてくれて、やってみなさいと言われました。
最初は出来ませんでしたが、何度もイメージを固めて魔力を注ぎ続けているうちに出来るようになったので」
俺は頷いてディーに近づいていく。
「よし、じゃあ座学はこの辺にして、今から魔法使い初級編の訓練を行っていくぞ」
ゴクリと唾を飲み込むディー。
「なに不安に思うことはない。最初にすることは座禅だ」
「座禅?」
「そうだ。大気中に存在する魔素を感じるんだ」
「魔素を感じる?ちょっと意味がわからないのですが……」
「お前は魔法使いとして、すでに魔法を放つことが出来ている。
魔法を本来、大気中の魔素に魔力を流し込まなければ発動しない。
つまり、わからないなりに魔法を発現していたお前は、魔素を感じることが出来るということだ」
こればかりは説明をしても、実際に感覚としてわからなければ意味が無い。
ディーと共に今日から三日間は座禅をやるしかない。
朝起きて、食事して座禅をする。
昼になり、食事をして昼寝をして座禅をする。
夜になり、食事をして座禅をして睡眠をとる。
出来れるだけ自然の中で身を任せるために、岩場だけでなく森や川に転移をした。
魔素について考え体内の魔力と対外の魔素と向き合う。
「先生……少しだけですが、魔力がわかったかもしれません」
普通の魔法使いでは座禅を組んだだけでは理解できない。
だから、ここは少しだけズルをした。
目を閉じ魔力を体内で循環させるディーに、外部から俺を橋渡しにして体外の魔素を流して感じやすくしたのだ。
「そうか、ならお前のファイヤーアローを見せてくれ」
「はい」
ディーは体内の魔力を循環させて、魔素と魔力を繋ぎ合わせて魔法を作り出す。
最後にファイヤーアローのイメージを固めて岩へと放った。
そのスピードは遅くお世辞にも強そうには見えなかったが、威力は岩を貫通させることが出来た。
「出来た!出来ました先生。僕でも岩を」
「よくやった。だが、イメージはまだまだだな。岩が溶けていないし、アローにスピードも遅い」
「そうですね。もう一度」
「いや、今ので魔素を感じることが出来たのはわかった。訓練は、次の段階にいくぞ」
一週間でディーを戦える状態にする。
そのためには時間が惜しい。
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あとがき
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