第15話 シーフの初級訓練 実践編

ゴブリンのダンジョン。


そこはゴブリンだけが生息するダンジョンであり、その深さはどのダンジョンよりも深いと言われている。


洞窟型で見えづらく、奥に進めば進むほど強く群れでゴブリンが襲ってくる。


道は入り組んでいて初級ダンジョンとは思えないほど複雑な作りになっていた。



「どうだ、わかるか?」



今回はガロの実践訓練だ。


二冊の本を読み終えたガロに必要な探索技術を磨かせるため、もっとも適したダンジョンにやってきていた。



「メッチャくせぇ。俺が住んでたスラムよりも、街の下水道よりもやべぇ」



鼻を摘まむガロは物凄く嫌そうな顔をしている。



「くくく、確かにな。だが、五感を塞ぐのはやめておけ。目、鼻、耳、舌、触。

それらはお前の感覚を研ぎ澄ませるのに不可欠だ。

もしも失うことがあれば、他の感覚を研ぎ澄ませなければならない」


「うす」


「それと戦闘になることがあるからな。このダガーを渡しておく」



亜空間から取り出したダガーはなんの変哲もないダガーに見えるが、一つだけガロを助ける仕掛けをしてある。



「もらってもいいのか?」


「ああ、お前のために用意した武器だ」



元々持っていたボロボロのナイフは今回置いてこさせた。

モンスター相手に使えば、すぐに折れてしまう。



「俺のために?普通のダガーに見えるが?」



刃渡り三十センチのダガーをクルクルと回して使い勝手を確認するガロ。


ダガー捌きはなかなか様になっている。



「短剣術はまだ仕込んでいないからな。

今回ゴブリンと戦闘になることがあれば、二つの動作だけに集中しろ」


「二つの動作?」


「そうだ。突く。薙ぐ。の二つだ。

絶対に敵の攻撃をダガーで受け止めようとはするな。

無理やり斬りつけるのもやめろ。突く場所は心臓か太もも。薙ぐ場所は首筋だけだ」



説明をするだけでガロは意図を理解する。


地頭も悪くない。


二冊の本を読めと言われて文字の勉強から始めたはずなのに。

二回目に読むときにはディーに質問することなく読み終えた。



「へいへい。相変わらずよくわかんねぇ課題だけど。わかったよ」



ガロは相当ダガーが嬉しかったのか、一緒に渡したカバーにしまうことなくクルクルとダガーを回しながら進んでいく。


先にゴブリンの気配を感じてはいたが、あえて指摘はしない。



「よっと。こういうことだろ」



角から出てきたゴブリンの首筋にダガーを突き立てる。



「お見事」



本来、人型のモンスターを倒す際は怯えるか、嫌がる者が多い。


だが、ガロにはそれが見えない。


育ってきた環境もあるのだろうが、強くなるための覚悟がある。



「今のは気づいていたのか?」


「ああ、あいつらが近づいてくると臭さが強くなるからな。それに足音も隠そうとしてなかった」


「いい判断だ。だけど、ゴブリンは進化していく。

音や匂い。気配や姿まで消してしまう奴が現れる。それらに気付くのがガロの仕事だ」


「ふぇ~マジで厳しいじゃねぇか」


「そうか?俺が思うお前のギフトは観察眼だ。


気配を消す能力。

手先の器用さ。

度胸。


どれも素晴らしいギフトだと思うが、その中でもお前がもつ観察眼はピカイチだ」



ガロが人込みの中から俺を見つけて財布を抜いたとき。

確かに俺は油断をしていた。

油断した相手を選んで、体のどこに財布があるのか見極め。

スリ取るタイミングまで完璧だった。



「生きていくためだ」



ガロの雰囲気が変わって真剣な目で俺を見る。



「あいつらを食わせていく。俺は一日でも早く強くなってやる。そのためにならあんたの言うことも聞いてやるよ」


「理由なんていいさ。お前は強くなる。そのために今日はゴブリン居場所を見つけてゴブリンを狩れ。まぁざっと100匹は殺して帰るぞ」


「マジで鬼だ」



それからはゴブリンを探索する。見つけては戦う。

ある程度戦っては休憩をして、また探索する。


それを繰り返してレベル10になったところで、ボブゴブリンに出くわした。



「あれは?」


「このフロアボスだろうな」



ディーの時に現れたアイススライムをディーはファイアーボールの一撃で倒して見せた。



「やれるか?」


「まぁ、多分ここに来る前の俺だったら無理だっただろうな」



ガロは何かを口で教えても理解するかもしれない。


だが、実践の中で思考を巡らせ己で編み出したときの方が体に馴染むことを知っている。


ガロはレベルを上げる毎に身体能力を上手く使うように自らを特化させていった。


一歩を踏み出した瞬間に、ガロの気配が希薄になり。


スキル忍び足が発動する。


市販のダガーならば、ここまで敵を倒し続けていれば折れて使えなくなる。

だが、成長するダガーはガロの成長に合わせるように、手に馴染んでいく。



「お前程度なら、もう敵じゃねぇよ」



次に現れたガロはボブゴブリンの背後に現れて心臓を一突きする。



「ゴブッ!!!」



受けたダメージに驚いている間に、ガロの二撃目がボブゴブリンの首筋を薙いだ。



「油断はしねぇ。完全に死ぬまでお前も生きるためにもがくんだろ?」



ボブゴブリンが首から出血して息が出来ずにもがき始める。


ボブゴブリンの異変に気付いた他のゴブリンたちに対して、ガロは一匹ずつ確実に仕留めていった。



「先生。俺は合格かい?」



ダガーを向けて俺を見るガロ。



その後ろに倒れるゴブリンたち。



「ああ。初級試験合格だ」



「よし!」



気合のこもったガッツポーズが子供らしく、笑顔は照れくさそうでガロらしかった。



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