第11話 魔法使いへの中級指導

ガロがシーフの勉強を始め、ディーが魔力コントロールの一環として、魔法による肉体強化を教えて一週間が経とうとしていた。


「先生、すみません。未だに1秒間も維持できなくて」


「別に珍しいことじゃない。ただ、少しばかりディーは効率が悪いな。それにイメージもハッキリとできていない気がするぞ」


「効率とイメージですか?」


「そうだ。効率は、魔法基礎のときに教えたが保有魔力に頼りすぎないことだ。

レベル10になって保有魔力が増えたことで保有魔力でどうにかしようとしているだろ。それではいくら維持しようとしても魔力は枯渇してしまう」



ディーは俺が与えたヒントで多少は理解できたようだ。


魔力を身体に巡らせるまでは保有魔力をイメージする。

そこから定着させるために体外にある魔素で身体の周りに膜を作る必要がある。



「魔素は空気の中にあり、魔素を使って定着させるためには空気で身体を包み込む?」



ディーは素直で優秀な生徒だ。

言われたことを守り、自分なりに考えを導き出せる。



「ふぅ~さっきより楽だ」



3秒間だけではあったが、魔力による肉体強化に成功していた。



「魔法は合ってるぞ。次は、イメージ力だ。

ただ魔力で身体を包み込んで身体を強くするだけじゃダメだ。

指の先、身体の中、細胞の一つ一つに至るまで魔力を行き渡らせる。

まるで魔力が自分の身体の一部であるかのように馴染ませろ」



身体と魔力が定着した状態を維持できるようになれば、Sクラスも夢じゃない。



「ハァハァハァ。これはやっぱりきついですね」


「最初から出来るとは思ってないさ。弓矢の時にも言ったが、日頃から肉体の鍛錬は必要になる。これもその一環だと思えばいい」


「はい!」



魔力コントロールはその精密さを上げれば上げるほど、応用に有利になる。


魔法の発動速度

魔法の強度、威力

魔法の操作


どれをとっても魔力循環のコントロールの精密さが大切にある。



「なぁ、俺は?俺は本を読む以外にすることはないのかよ」



ガロは強くなっていくディーを見て焦りを感じたのか、それともいつまでも同じことをやらされていて飽きてきたのか、問いかけてきた。



「そうだな。読書だけじゃ集中力が途切れるよな。体を動かくことをやろう」



俺はそう言ってアイテムボックスから、三つのオモチャを取り出す。



「これは?」


「それは知恵の輪と言う。こうして4つのリングが絡み合って外れにくくなっているのを外して、またくっつけるんだ。


次がルービックキューブ。9面の同じ色をしたマスを6面揃える。

バラバラにしてはどれだけの速さで揃えるられるかを繰り返す。


最後に立体パズルと言って、青くて丸い球体を作っては壊してまた作り直す」



それぞれのオモチャを実践して見せる。



「へ~面白そうじゃん」



俺が全てを瞬時に完成させたことで簡単と判断したガロが取り掛かるが、どれ一つ上手くはいかない。



「はっ?なっなんで外せねぇんだ」


「おいおい、力でいくらやっても知恵の輪は外れないぞ。観察して、それぞれの輪のバランスを計算して外さないとな」


「こんなの面白くねぇ」



そう言って次はルービックキューブに取り掛かるが、一つの面を合わせることは出来ても他の面が揃わない。



「くっ」



一つ揃っては喜んだが、すぐに他が出来ないことに気付いてルービックキューブも手放した。



次の地球儀を模した立体パズルは6時間ほどかけて完成した。



「今日は疲れた。もう寝る」



不貞腐れるように眠りについたガロ。


どれでも器用さと観察眼。そして空間把握能力が必要になる。


特殊な能力ではあるが、訓練次第で鍛えることが出来る能力は今後のガロを強くする土台になってくれるのだ。



「うわ~こんなの難しすぎませんか?」



ルービックキューブを手に取ったディーが聞いてくる。



「そうか?」



俺は一瞬で全ての知恵の輪とルービックキューブを揃える。

法則を理解できればどちらも1分もかからない。

ただ、法則を知る前に観察と理解、そして考察が必要になる。


何より器用でなければ速さは求められない。



「ガロならすぐに出来るようになるさ」


「僕は苦手そうですね」


「そうでもないが、ガロと同じことが出来る必要はないさ。ディーにはディーの良さがある。ガロにはディーと同じだけでの魔法への理解は求められない。

得手不得手があり、得手を極めれば不得手も理解できるようになるんだ」



俺は右手に魔法を出現させながら、左手だけでルービックキューブをバラバラにして揃え直す。



「先生は本当になんでも出来てしまうんですね……」


「出来るのと極めるのは違うぞ。

ディーにしても、ガロにしても、それぞれの得意を極めたとき、俺を超える素質を持ってるんだ。


万能で器用に全てをやるのは誰でも出来る。


だが、一つを極めて誰も成し得ないことが出来るのは、才能がなければならないんだ」



ディーは俺の言葉を噛みしめるように手を握って突き出した。



「必ず先生を超えてみせます」



「その意気だ」



ディーの宣言に頭を撫でる。


少しずつではあるが、ディーが自信を持ち始めている。



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