第13話 アタッカーとディフェンダー

訓練所に入るのも随分と久しぶりだ。


2週間前までは、毎日当たり前のように来ていたのに、ここを離れることになるとはな。



「本当に二人を同時に相手にするつもり?」



レイピアを構えたリリアが戸惑った様子で聞いてくる。



「どうした?二人じゃ自信がないのか?」


「舐めないで。モンスターパニックのモンスターだって私が倒したんだから」



広場に入ったとき、大量のモンスターが倒されていた。

しかし、途中で力尽きてしまった時点で倒したとは言えない。



「そうか、ならその力を見せてくれ」



合図を送ると、セシルが突っ込んでくる。


フルメタルアーマーは防具だけでなく攻撃にも使うようで、そのまま殴りかかってきた。



「おっと」



パンチを避けるが、避けた袖を掴まれる。



「捕まえました」



女性とは思えない力で引き寄せられ、腕を抑え込まれた。



「お姉ちゃん」



セシルが呼ぶ前にリリアが回り込んでレイピアを横から突き出される。



「いい連携だ」



俺は服を脱ぎ捨てセシルの拘束から逃れてレイピアを避けた。



「くっ」



決めきれなかったことを悔いて、リリアが追撃をかけようとするが俺はセシルを盾にして攻撃を躱す。



「なっ!卑怯な」



セシルはフルメルルアーマーの死角に回り込まれたため俺の動きを見失ってしまう。



「戦いに卑怯は無いぞ」


「ヒャッ!」


俺は後ろからセシルを抱き上げて投げ飛ばした。

リリアは巻き込まれる形で二人が倒れる。



「ふぅ~どうだ?」


「まだよ」



一度で納得できないなら何度でも相手をする。


そのあと5回ほど戦闘を行ったが二人が俺に敵うことはなかった。



「「ハァハァハァ」」



二人が息を切らせて座り込む。



「どうだ?俺の指導を受ける気になったか?」


「悔しいけど。あなたが私達よりも強いことはわかったわ」


「凄いです」



二人は息を整えて立ち上がる。



「……今まで無礼なことをしていてすみません」



立ち上がったリリカが頭を下げる。

先ほどまで強気な発言をしていたリリカとは思えない行動に驚いてしまう。



「どうした?」


「まだ、助けてもらったこともちゃんとお礼を出来ていなかったわ。

それに無礼な物言いをしている私達を指導しようとしてくれている。

なのに礼儀がなっていないのは私の方でしょ。だから謝罪と感謝を」



リリカはセシルを見る。



「「助けて頂きありがとうございます」」



二人は深々と頭を下げた。



「それとこれからよろしくお願いします」



リリカが続けて生徒になることを認める。



「おう。よろしくな」



俺はそのまま二人を連れてハーフラインから聞いたギルドハウスへ転移をした。



パチン



到着したギルドハウスは、貴族の屋敷のように大きな建物だった。



「凄い大きいわね」


「うわ~こんなところに住んでいいの?」


「二人とも、俺には君たち以外に二人の生徒がいるんだ。そいつらも連れてくるから、自分たちの部屋を決めておいてくれ」



建物中に入ると、一階はラウンジとカウンターがあり、冒険者ギルドほどではないが商売ができそうな大きさがあった。


奥に進めばいくつか会議が出来そうな大きな部屋があり、厨房や風呂まで設置されている。


二階は、個別の部屋が20以上あり、ベッドとクローゼット。小さなテーブルが置かれている。



「私達が先に決めていいの?」


「もちろんだ。後の二人は男だからな。女性である君たちを優先したいと俺は思っている」


「……わかったわ。ここは感謝します」


「ありがとうございます」


「うむ。それと俺のことは先生。もしくはマナブ先生と呼んでくれ」


「はい。先生」


「よろしくお願いします。マナブ先生」



リリアからはケジメを含んだ上下関係を表す先生と言われ。

セシルは親しみを込めてマナブ先生と呼んでくれる。



「じゃあ行ってくるよ」



パチン



アパートに戻った俺はディーとガロに新たな生徒が出来た経緯を伝えて、アパートの解約や荷物の片付けなど掃除を済ませて部屋を出た。



「おかえりなさい」



ラウンジで掃除をしていたセシルがフルメタルアーマーを来たままモップをかけていた。



「ただいま」


「いやいや、普通に挨拶するのはおかしいだろ?」



ガロがセシルのフルメタルアーマーに突っ込みを入れる。



「うん?何かおかしいか?ディフェンダーなんだ。防具を着ていてもおかしくはないだろ?」


「いやいや、おかしいだろ?えっ俺がおかしいの?」


「ガロ。先生を普通の物差しで測ってはいけないよ。だって先生はなんでも知っていてなんでも出来てしまうんだから」


「ディーの兄貴。それもちょっとおかしいぜ」



二人が何やら漫才を始めたので、俺は相手をするのを諦める。



「セシル。リリアを呼んできてきてくれるかい?」


「わかりました」



セシルが二階に向かって声をかければ、リリアがすぐに降りてきた。



「おかえりなさい」


「ああ。ただいま。さっそくだが顔合わせをしようと思うが大丈夫か?」


「ええ。自分たちの部屋は掃除を終えて、今は気になるところを掃除していたの」


「そうか。助かるよ」



俺は二人に礼を述べて、漫才をしていた二人を見れば、二人ともリリアを見て固まっていた。



「どうかしたのか?」


「綺麗だ」


「はっ!なっなんでもねぇよ」



どうやらリリアは二人からすればかなり美しい少女なのだろう。



「まぁいいか。とりあえず俺が紹介するぞ。


赤髪の姉がアタッカーのリリア。

フルメタルアーマーを着ているのが妹のセシル。

魔法使いのディー。

シーフのガロ。


とりあえず俺を含めて五人で共同生活をすることになる。

これだけ広い建物を借りたから掃除をしてくれる者を雇おうと思うが、とりあえずは五人でスタートだ。


男女だから色々と相談しないといけないことも多いが、互いに配慮した生活を送ること。仲良くできるかは、互いに配慮が大事だからな。不満に思うことがあれば話し合いをする。いいな?」



俺が一気にまくし立てることになるが、四人から頷きが帰ってきたので、四人の共同生活が始まることになった。


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