ソルティキャップ改編前
白藤しずく
第1話 俺の運命
「俺ら2人で甲子園、絶対行こうな!」
あいつがそう言ったのは、もう3年も前のことだ。中3の夏、全国大会1戦目で惜しくも負けた。俺らバッテリーは9回裏、1点差の局面で相手打線を抑えることが出来なかった。俺らは泣きながら2人で甲子園に行くことを約束した。
それなのに
それなのにあいつはスカウトをけって、高校に行かない選択をした。俺が今投げている相手はあいつじゃない。甲子園に行ったところであいつじゃなきゃ意味がない。
高3の夏。最後の大会を1週間後に控えた今、俺は昔のことをぼんやりと思い出していた。
俺は一体何のために強豪校で投手をしているのだろう。一体誰のために……
その時だった。信号待ちをする俺の目の前で小さな男の子が飛び出した。
危ない
そう思ったときにはもう俺の体は動いていた。
気がつくと、俺は、灼熱のアスファルトの上に、横たわっていた。
遠くの方で、男の子の元気な泣き声が、聞こえる。
良かった。
安心すると、俺の意識は、アスファルトに溶けていった。
目が覚めると目の前には家族と、駆けつけてくれた部活のやつらがいた。右腕がズキンと痛む。このとき、俺は自分の身に起こったことの全てを理解することは出来なかった。ただ、右腕の痛みから俺の夏は終わったんだということを、悟った。
「右腕は複雑骨折をしていて、靭帯もかなり損傷しています」
医者はよくわからないことを言っている。それを聞いた母さんは喉を痛めているかのように、
「陽介の腕は…この子の腕は…どうなっちゃうんでしょうか」
と言った。医者は俯いたまま、
「短くて3ヶ月、長くて半年で完治、といったところでしょうか」
と、また小難しいことを口にした。この言葉が、俺の夏が終わったことの明確な証拠となった。
医者が言うには、あのとき運転士が直前でブレーキを踏んでいなければ、俺は今頃空の上だったらしい。それでも頭は10針縫ったし、右足は捻挫している。1ヶ月は入院が必要と言われ、俺が引退式に顔を出すこともなかった。
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