第11話 8週目

 今日は野球の試合中継が無い日だったから、彼女の見舞いには昼頃に行った。彼女の病室へ近づくと、野球の試合があるはずもないのに、中が騒がしいことに気づいた。また少し胸騒ぎがして、病室のドアをガラッと開けた。と同時に、盛大なクラッカーの音が鳴って俺は肩をすくめた。

「おめでと~!」

 彼女の病室には小さな子供たちからよく見るおばちゃん看護師までたくさんの人が

 集まっていた。その中心には、ケーキ模様のハットに、「HAPPY BIRTHDAY」と書かれたサングラスを掛けた、「パーリーピーポー」という言葉がよく似合う彼女の姿があった。俺はひっそりと様子を伺うつもりだったのに、見慣れない彼女の姿に思わず笑ってしまった。

「あっ! 陽介さん! 来てくれると思ってましたよ!!」

「あ、えっと、どうも…」

 俺は導かれるように輪の中心に招かれた。

「まゆーおねーちゃん! おたんじょーびおめでとう!」

 小さな子供たちが大きな彼女の似顔絵を渡した。子供たちはこんなにも元気なのに、点滴を吊り下げていることがどうも不思議に思ってしまう。そんな小児科患者の子供たちと彼女の微笑ましいやり取りをしていたが、ふと俺はプレゼントと言えるものを持っていないことに気が付いた。

「えっと、俺からはこれを…」

 そう言って俺は差し入れのグミを渡した。

「これ、美味しいんですよ~ありがとうございます!」

 彼女が自身のコミュニケーション能力で何とかカバーしてくれたけど、まあごまかせるわけないよな。俺は伸びかけた坊主頭を掻いた。だけど、彼女がグミを美味しそうに頬張る姿を見て、来年は今年の分までしっかり祝おうと決めた。

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