第7話 4週目

 8月ももう終わりに差し掛かっている。同時に、夏休みも終わりを告げようとしている。事故にあったあの交差点は、夏休みを最後までエンジョイしようとする車たちが豊かに走っている。

 今日のビニール袋には果汁100%のグミが入っている。食塩含有量は100gあたり0.02g。これなら彼女も食べられる。

 俺は自信を持って彼女の病室に入った。訳を知ってしまえば、この室温ももう怖くはない。

「こんにちは」

 俺が病室に入ると、彼女は体を起こした。

「お久しぶりです。先週はすいません。検査入っちゃって」

「大変ですね…あ、差し入れ、また持ってきました」

 彼女は袋を受け取り、中身を見るなり驚いた顔をした。

「今日は、いつものゼリーじゃないんですか?」

「あ…えっと、、お兄さんから病気のこと聞いて」

 彼女は納得したように頷いた。

「じゃあ気遣わせちゃいましたね」

「こちらこそ、何も知らずに差し入れ持ってきちゃってすいませんでした」

 俺は深々と頭を下げた。

「そんな謝らないでください! 病気のこと言わなかったのは私のせいですし…それに、あのゼリーは思い出深かったので、嬉しかったです」

 彼女はそう言って微笑んだ。

「思い出ですか?」

「父との思い出です。サーフィンの練習をしていると、いつも父があのゼリーを買ってきてくれたので」

 俺はただ、頷くことだけをして彼女の話を聞いていた。

「父は有名なサーファーで、日本代表にも選ばれていました」

「に、日本代表??」

「サーフィンってあまり注目されないので、知らないと思いますが。暇だったら調べてみてください、広崎進太郎って」

 俺はすぐに指を動かした。スマホの画面が切り替わると、1枚の顔写真が表示された。元気な目、少し茶色い髪、サーファーの割に色白。その写真は、彼女とそのサーファーを結ぶ遺伝子を感じさせるものだった。

 俺は画面を下にスクロールさせた。すると、俺の指は止まった。

 画面には、「広崎進太郎"突然死"」といったニュース記事や、「広崎進太郎の死因は?   あの時海で何があった」というようなサイトがずらりと並んでいた。

「オリンピックにだって出るはずだったんです。でも練習中に突然、死んじゃったんですよね」

 彼女は真っ直ぐ空を見つめていた。

「死因はアナフィラキシーショックによる溺死と言われました。でも何が原因でショック症状が起きたのか、わかっていないんです」

 俺は死因を考察しているサイトを開いてみた。


『体中の発疹からアナフィラキシーショックと診断されるのは不思議ではない。もちろん、彼に持病はなかった。しかし、クラゲ等の生物の影響でも、食べ物が原因でもないとされた。体内から生物の毒は検出されず、また過去のアレルギー調査にて食物アレルギーはないとされていたからだ。では、彼の身に何が起きたのだろうか。ここで、1つ気になることは、その日海水の濃度が少しだけ高かったことだ』


 俺はサイトを読んで、突然死の真相がわかったような気がした。と同時に彼女が口を開いた。

「私は、父も塩アレルギーだったんじゃないかと思うんです」

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