第2話 とある少女との出会い

 1ヶ月後、右足が治り退院すると、俺は8月の暑さに思わず目をつぶった。これからは右腕のために、週に1回の通院生活を送ることになる。


「病院まで送っていこうか?」

 玄関で母さんは心配そうに言った。

「大丈夫、じゃあいってきます」

 心配してくれる母さんを背に俺は家を出た。

 標高が高い地域であっても夏は暑い。ぼろぼろの野球帽に汗が滲む。事故に遭った交差点は、あの時と同じように車が走っている。夏の日差しに負けそうになって、親に送ってもらえば良かったと後悔する。

 歩いていくうちに、病院から放たれる冷気を感じ、俺は雪崩れるように病院に入っていった。

 受け付けの前に冷え切ったソファーでひと休み。まさに至福のひととき。体が冷えると、湿った洋服がソファーを濡らしているような気がして、思わず立ち上がる。俺はなんだか後ろめたい気持ちになって、受け付けに向かった。

「10時半に整形外科に予約している佐竹陽介です」

「受け付け番号でお呼びいたしますので、もう少々お待ち下さい」

 そう言われて渡された紙には"35"と書かれている。きっと「少々」なんかじゃないなと思いながら、さっきのソファーに向かう途中、

 トントン

 と肩を叩かれた。振り返ると女の子が立っていた。

「あの、これ、帽子」

 俺が落とした帽子を拾ってくれたようだった。女の子の帽子を持つ手は、赤く腫れ震えていた。

「あ、ありがとうございます」

 そう言って帽子を受け取り、ソファーの方に振り返ったその時、女の子が咳き込みだした。

 女の子はしゃがみ込み、息苦しそうに咳をしている。

「だ、大丈夫ですか」

 俺はただそう聞くことしか出来なかった。

「大丈…夫…です…」

 咳の合間にその子は消え入りそうな声で言った。どう見ても大丈夫じゃないその光景に、俺はただ混乱するばかりで何も出来なかった。

 やがて看護師が来ると、看護師はその子の顔を見るなり、俺に鋭い目つきで

「離れて!」

 と叫んだ。

 もしかして…俺のせい…? さっきまで涼しかったエアコンの冷気が、急に寒くなったように感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る