第5話 2週目

 今週もまた、通院の日がやってきた。

 俺はまたエネルギーゼリーを買って、病院へ向かった。赤の他人とはいえ、『付き合う』と言われてしまうと、なんだか週1回の通院に合わせて見舞いに行くべきだと思ってしまう。


 彼女の病室は301号室。廊下の一番端っこにある。他の病室は一部屋に4つのベッドがあるが、彼女の部屋はベッドが1つ。小部屋のようになっている。そして、やけに整った空調設備にいつも驚く。

「失礼しまーす」

 俺が病室に入ると、彼女は外の景色から目を離し、俺に笑顔を向けた。

「今週も来てくれるんじゃないかと待ってました」

 待ってたと言われると、なんだか照れくさくなる。

「あの、また、ゼリーを、」

「わざわざありがとうございます」

 そう言って彼女は、ゼリーの入った袋を覗く。

「今日はアップル味なんですね」

「前回は期間限定のパイン味だったので。味を変えてみようかと」

 俺がそう話していると、彼女は俺の方をまじまじと見てきた。 

「えっと…何か…?」

「あ、すいません。すごく話が変わるんですけど、ずっと気になってて。その腕」

 彼女は俺の右腕を指さした。俺は自分の右腕を見て納得する。そりゃ、包帯ぐるぐる巻きだったら気になるよな。

「えっと…交通事故で…」

「交通事故…ですか…」

 本当のことを話しただけなのに、ものすごく空気が重くなってしまった。

「あ、いや、でも、大した事故じゃないので」

 俺はなんとか空気を取り持とうとした。

「でも、腕、かなりの大怪我に見えますけど…」

「こ、これは、打ちどころが悪くて。全治半年って言われちゃいましたー」

 この話に似つかわしくない、高めの声で俺は話した。

「半年ですか…じゃあ、野球は…」

「事故に合ったのが丁度、大会前だったので…」

「それはきついですね…」

『きつい』そう言われて俺の口が止まった。俺は事故に合ってから『きつい』なんて思っていないから。内心ほっとした自分がいたから。俺はあいつが、君の兄が野球を辞めてから、野球をやる意味を見いだせなかった。決して辛くはなかった。でも、野球をすることであいつのことを思い出すのが、何よりきつかった。

 そんなこと彼女に言えるはずもなく、俺はまた精一杯の苦笑いをした。

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