第24話 21週目

 新年になり最初の診療日。もう腕はほとんど治ってきて、少しずつ動かせるようになってきていた。

「明けましておめでとうございます!」

 今年も彼女は元気であった。

「今日は叶汰、来てないんですね」

「なんかバイトがあるとか言って出て行きましたけど。ほんとは私たちのこと冷やかしてるんですよ! ここを出る時『お二人で楽しんで』って言ってたんです!」

「まあまあ、あいつなりの気遣いですよ。今日は二人で楽しみましょ」

 俺がそう言うと、彼女は何かを思い出したかのように手を叩いた。

「そうだ! 初詣に行きませんか? ずっと行きたかった神社があるんです」


 俺は彼女に案内されるまま、病院の裏にある小さな神社に着いた。正月に近いというのに人気はなかった。

「この神社、私の病室から見えるけど、人が入っているの見たことがなくて。いつか行ってみたいと思っていたんです」

 神社の立札には『願ひ結びの神』と書かれていた。

「なんか、絵馬、ご自由にどうぞって書いてありましたー!」

 俺が古い神社に見入っていると、彼女は絵馬を二つ持ってきた。

「絵馬に何書こうかな~」

 広崎さんは考え込んでいたけれど、俺はすぐに書き終えた。

「陽介さん、何書いたんですか?」

「いや、ちょっとそれは、内緒です」

「見せてください!」

 そう言って彼女は俺の絵馬を奪った。

「広崎さんがまたサーフィン出来ますように、って…」

 俺の耳は溶けそうなぐらい熱くなった。

「嬉しいです。自分の絵馬に私のこと書いてくれるなんて」

「広崎さんはなんて書いたんですか?」

「私のは見せません!」

「ちょ、ちょっとずるくないですか?」

「いつか勝手に見てください!」

 俺らは絵馬を掛けると口を開けて笑った。この幸せな時間がこれからもずっと続いてほしい、そう思っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る