第16話 15週目

「また真結の見舞いに来てほしい」

 診察を終えた俺に叶汰がそう言った。俺は見向きもしなかった。

「俺のことは一生恨んでいい!もう恨んでいるだろうけど。ただ、真結のことだけは大切にしてやってくれないか」

「でも俺はあの子にとって害がある存在なんだろ」

「真結はお前に会えるとすごく嬉しそうなんだ」

 これでもかというくらいに深々と頭を下げる叶汰の声は震えていた。

「俺はあの子に元気でいてほしい。俺があの子の体調を崩す原因になるなら、俺はもう会わない」

 俺は叶汰に背を向けて病院を去った。


 丁度家に帰ったころ、叶汰から電話がかかってきた。

「もうなんなんだよ、しつこいな…」

 俺は仕方なく電話に出た。

「もしもし、陽介さんですか」

 聞こえてきたのは広崎さんの声だった。

「元気になったんですか」

「元気です。だけどやっぱり陽介さんに会いたいです」

 俺は何も言えなかった。

「お兄ちゃんが失礼なことを言ったのは知っています。ほんとすいませんでした。でも、もしたとえ私の体調が悪くなるのが陽介さんのせいだとしても、私は陽介さんに会いたいです。話し相手居ないと寂しいんです」

 俺にとっても広崎さんは大切な存在であった。広崎さんに会わないのはなんだか物足りなかった。

「俺だってずっと心配してたし、お見舞い行きたかったし、一緒に話して笑ってる時間が最近の一番の幸せだったんです」

 彼女はふふふと笑った。

「じゃあ仲直りですね。元から喧嘩してたわけじゃないですけど」

「来週からまたお見舞い行きますね」

「元気に待ってまーす」

 電話が切れると俺はベッドに飛び込んだ。嬉しさのあまり俺は足をじたばたと動かした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る