爪
★
ロコ少年の持つ
「何だニャムス、
「若様、ちょちょこっちこっち、こっちにゃ」
ニャムスが、ロコの手を引っ張って離れると、二人でヒソヒソと話しを始めた。
「せっかくバリボリの代わりにくれると言ってるのに何考えてるにゃ、もらっとくにゃ」(小声)
「バカ、お前こそ何考えてるのだ。バリボリ程度でこんな高価な物もらえるわけあるか」(小声)
「若様こそ何言ってんにゃ。こんなチャンス滅多にないにゃ」(小声)
「無茶言うな、この
「そうだにゃァ……だけど、若様はこの
「確かに、これ程の
「そうにゃ、そうにゃ、いただくにゃ。お金持ちにゃ、ガッポリにゃ」(小声)
「……いやダメだ、今の私達の手に負える訳ないだろ。危険すぎる。お前死にたいのか?」(小声)
「ううう、それは怖いにゃあ……解ったにゃ、もったいにゃいにゃあ」(小声)
全部聞こえてる。
この光る石は、高価な物らしい。
二人の話し合いは、すぐに終わって戻ってきた。
ロコは、俺の前に
「お返しします」
「いや、俺が持っててもなあ……」
「私こそ、持ってても困るんです」
「何で困るんだい?」
「これ程の
「……? 良く解らんが、何か凄い物のようだな」
「はぁ、凄い物なだけに、危険にもなるのです」
「危険?」
「はい、私のような後ろ盾の無い者が、これ程の
この石は、人の命を奪ってでも手に入れたい価値があるものらしい。
価値がありすぎると、彼らには問題がありそうだ。
人の欲望には際限が無い。
俺は、ロコの手から
「そうなのか、迷惑になるのだな、すまん。でも飯の礼はしたいんだがな」
「それより、この
「ああ、さっきから言ってるが、森で出会ったトカゲの中から引きずり出した」
「……?」
「……?」
二人して首をかしげ、困った顔して俺を見ている。
何だろう? 俺がオカシイみたいな雰囲気になってる。
実際、トカゲの生き胆から引きずり出した
わからない。
時々会話が通じなくなるのは、文化が違いゆえか?
確かに俺の口は上手くない。
だからと言って、これはどうした事だ?
文明人として、捨て置けぬ事態であった。
しょうがない、ここは、もう少し詳しく説明するべきであろう。
俺は、身振り手振りを交えながら、
「これぐらいのな、デカいトカゲにガーって襲われてな、バチーンとやって、こうズブッとやって、ダーと倒したんだ……こうだっ、こうっ……ガッ!バンッ!ズブッ!ダーだ。どうだ、わかったか」
「……意味が解りません」
「……この人、何言ってんにゃ?」
ダメであった。
通じない。
やはり、文化が違うのか?
俺の数少ない記憶では、コレで通じ合うはずなのだ。
だが、彼らには通じてない。
なら、どう説明すれば良いものか……
はっ!
そうだ、トカゲの特徴を説明すれば良いのだ。
閃いた。
俺は、トカゲの特徴を詳しく説明するべく口を開いた。
「そうだ。変わった特徴のトカゲだったんだ」
「はい、どんな特徴が?」
「そうにゃ、そう言うのを聞きたいにゃ」
二人は、話しに食い付いてきた。
これで通じると、俺は満面の笑顔でトカゲの説明を始めた。
「トカゲはな、全身グッとくるような色しててな、火がゴーって出てな、風がブゥワっと出てたんだ、ゴーブゥワって……どうだ、わかったか?」
「……どうしようかな」
「……頭悪いにゃ、この人頭悪いにゃ」
やれやれ、これは困った。
この二人は、俺の言葉を尽くした説明を聞くつもりが無いようだ。
いったい、どのようにすれば伝わるのか……
はっ!
そうだ、アレだ。
俺は、風呂のアカスリ代わりに使ってた爪を持ってたのだ。
「ちょっと待て、トカゲの身体の一部を持ってるんだ、ちょっと待てよ……えっと、コレコレ」
俺は、懐の中から、トカゲの爪を取りだした。
それを観たロコとニャムスが、お互いに顔を見合わす。
「フェエ? その爪の大きさは……」
「ウニャ? その綺麗な爪の色……」
「「蛇の王バジリスクの爪か?・にゃ?」」
ようやく、文化の違う二人からマトモな情報が出てきた。
二人が声を合わせて、蛇の王バジリスクと呼んでる。
森の王であったトカゲに相応しい呼び名である。
「若様、この爪街で詳しく鑑定しないと解らにゃいけど、多分本物のバジリスクにゃ、蛇の王にゃ。オババ様んちの城で見たのと同じにゃ」
「なるほど……それにこの爪に刻まれた模様は……あれ?凄く複雑な模様してる……ッ、なんてことだ、これは……巨大に成長した
二人の会話から、あのトカゲは巨大に成長した
どうりで美味かったわけだ。
「へー、そうか、あのトカゲがなあ」
トカゲの肉汁あふれる滋味を思い出し、たれるヨダレを拭いていたら、ロコが口を開いたまま俺を凝視していた。
「え? いやいやいや、バジリスクは、
「へー」
「しかも、その爪の模様は、
確かに、あのトカゲは強かったな。
「ふむ、
「……え」
「……厄介どころじゃにゃいにゃ」
「ホーそうなんだ……ところで、
「……えーっと、狡猾な知恵と強力な呪力を得た
「厄災ねえ。
あの
だが、ロコの反応は違った。
「いえ、
「ほう」
「ですから、武人の中でも武名のホマレ高き剛の者を選りすぐり、少数精鋭パーティーで
「ふむふむ」
「ですが、例え武名のホマレ高き武人であっても、少人数のため返り討ちにあうのは珍しくありません。それを一人で倒しただなんて……」
「そうかそうか、だから、あんなに強かったんだな」
……
……
俺の返事に、ロコとニャムスは、また変な顔して俺を見ている。
本当に失礼なヤツラだ。
「はあ……強いってもんじゃ無いんですがねえ……ところでバジリスクの肉や他の素材はどうなさいましたか? 羽や牙は高価な
「……喰ったよ」
……
……
「えっ?」
「にゃ?」
「ああ、だから喰った。羽とか骨は喰えなかったから捨てたが、肉は四日ぐらいかけて全部喰った。美味かったけど、贅沢を言えば塩が欲しかったなあ」
……
……
「「えー・にゃー、もったいない」」
二人そろって、もったいないと言われても困る。
喰っちまった物は、しょうがない。
持ってきたのは、
残骸は、森の中に捨ててきた。
今頃は、小動物の腹にでも収まってるだろ。
俺の手元に残ってるのは、この二つしか無いんだよな……
あっ!
そうだ、この際だ、丁度良いから、この爪を渡そう。
「そんなに貴重なもんなら、この爪を飯の礼に渡すよ。これなら良いだろ?」
「え、でもコレだって競売に出せば、高い売値がつきますよ」
「良いんだ、他に渡せる物が無いから、もらっといてくれ」
「でも……」
「若様、もらうにゃ。オジサンありがとうにゃ」
「あ、コラっ」
ロコの手にあったバジリスクの爪を、横からニャムスがひったくった。
それを取り返そうと、ロコがニャムスを掴んでる。
最終的にニャムスが勝ったようだ。
バジリスクの爪は、そのままニャムスの背嚢の中に消えた。
賑やかな二人の騒ぎも収まる頃、俺達は野営場所に到着した。
野営場所には、大人数が野営できるよう幾つものカマドが並び、整備されている。
ロコの説明によると、普段は、
この地を管理するハイネル覇王府は、交易の基盤整備に手を抜いていない。
まさに文明の香りである。
俺は、今後の文明に期待を寄せながら、野営の準備を始めた。
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