精《エレメント》
★
ロコ少年が石の穴に息を吹き込むと、雲が湧く様に光のつむじ風が起きた。
「……これは凄い、精神力を抑えて
「ウニャ凄いにゃ、これなら天然物かどうかにゃんてどうでも良いにゃ、高く売れるにゃ、ニャー達お金持ちにゃ、若様やったにゃ~」
二人して訳の分からない事を言い始めた。
本当に意味が分からない。
実際、森のトカゲから取り出した石なのだ。
穴の空いたただの石にしか俺には見えない。
俺は、その疑問を二人にぶつけてみた。
「それで、この石がどうかしたのか?」
「……」
「……」
俺の反応を見た二人は、かぶりを振った。
「いやいや、どうやって手に入れたのかは存じませんが、天然物でこれ程の大きい物は、トンデモナイ価値を産み出す
「へー、こんな穴が空いてるぐらいでそんな価値があるのか、穴が空いてるだけでなあ……」
俺は、ロコが差し出した石を見た。
俺の握りこぶし大はある石には、中央を貫く大きな穴が開いている。
ロコは、良く解ってない俺に説明を続けた。
「この穴の逸話は、神話の時代にまで
「神話にまで?」
「はい、神話時代の話しです。冥界の扉が突然現世に開き、この世とあの世の中間の狭間、つまり
「ほう」
「人や獣の力では、巨大な
「そんな化け物が現れて、世界がよく滅ばなかったな」
「ええ、実際、世界が滅ぶ寸前まで追い詰められたと言い伝えられています……ですが、滅びかけた
「救いの手か」
「
「では、武神のおかげで全ては丸く収まったのだな?」
俺の問いに、ロコは首を振って答えた。
「残念ですが、
あれと何か関係しているのか。
「ふむ」
俺はうなずいて、ロコに話しの続きを促した。
「巨大な
「大地の
大地の
俺の疑問に、ロコが大地の精について説明をしてくれた。
「大地の
「ふむ」
「人の精神と、大地の
この辺りの話は、記憶に残っていた。
「春先に、心がアテられる者が出る話なら知っているが」
「その認識で間違ってないです。大地の
「大自然の輪廻が狂わされたと?」
冥府の
「はい、呪いによって、この世に存在しなかった新たな
「新たな
俺の問いにロコが頷きながら答える。
「大地の
ロコの説明で、瘴気がヤバいものだと解った。
だが、別の疑問がわいてくる。
「ふむ、呪いの影響で、大地の
「瘴気が濃く溜まった場所では、生き物の
「瘴気が
「はい、特に精神が弱っていると危なく、体内の
瘴気が取り憑くと、宿主の負の感情を糧に穴を開けているらしい。
「その瘴気が、石に穴を開けたのか?」
ロコの手にある石を指さし、覗き込もうとしたら、ロコは握っていた石を俺に返してきた。
「その通りです、
「この穴がなあ」
俺は、手に握った
言われてみれば、穴から見える風景はゆらぎ、空間その物が歪んで見えている。
何らかの力がこの石に宿っているようだ。
「ええ、穴が
鬼気とは、森でトカゲと戦った時、身体の周囲にまとわせていた常闇色の鬼気の事だろう。
穴が繋がると、冥府から鬼気が流れるようになるらしい。
だが、彼の説明ではまだ疑問があった。
「石に穴が空いたぐらいで
「そうなんですが、えーっと、どう言えばいいかな……」
首を傾げる俺に、ロコは困った顔している。
彼も、どう説明すれば良いのか解らないのだろう。
その様子に隣で見てる猫耳のニャムスが、助け船を出してきた。
「ウニャ、ニャーが説明するにゃ、『
立ち止まったニャムスが、道路脇に落ちていた棒を拾い、地面に『魂』の
石柱から湧き出す
色々と記憶に問題のある俺だが、不思議な事に、ちゃんと文字として読めた。
「ふむ」
俺が覗き込んでいると、ニャムスが『魂』の左側『云』の部分を棒で指さした。
「『云』とは雲にゃ、精神の元になる
ニャムスが『魂』の右側から『云』の部分を消した。
残った文字は……
「
「そうにゃ、
「ふむ……まあ、色々あるんだな。それで、この穴は冥府に繋がるヤバい穴だったのか……んじゃ、この
俺が
「あ、この状態なら大丈夫です。
「ほー、この石がなあ」
「まあ、通常の
「へー」
確かに、あの派手な色したトカゲは強かったな。
「その上、
イマイチ分からんが、
イマイチ分からんが。
「へー、あのトカゲがねえ……」
「えっ?」
「にゃ?」
俺が、困った顔をしてトカゲの事を言ったら、ロコとニャムスが固まった。
「ちょっと待つにゃ、おかしいにゃ。どこの古代遺跡で手に入れたのか知らにゃいけど、そんな大きな
おかしいのは、コイツらの方だ。
トカゲから獲れないとか言われても、実際獲ってきたのだ。
「何を言っているのだ、目の前に有るじゃないか、それに俺が飯の礼で渡すと言っているんだ、受け取ってくれ」
「にゃっ、にゃに言ってるにゃー」
ニャムスは、ロコの襟元を掴んでガクガク揺らし始めた。
「若様、この人おかしいにゃ、頭おかしいにゃ。この大きさの
俺のような文明人を捕まえて頭オカシイとは失礼なヤツだ。
それに……
気がついたのだが、ニャムスがロコの襟首を掴む力、強くなって来てないか?
ロコの顔色が、どんどん悪くなってきてるぞ。
「や、やめろっ、ニャムス。苦しい」
「ニャッ、申し訳ないにゃ。ちょっと興奮したにゃ」
ロコは、ニャムスに絞め落とされる前に開放された。
「ゼッゼッ……お見苦しい所を見せて申し訳ありません」
「えっ、いや、首大丈夫か?」
「え、ええ大丈夫です、ところでこの
ロコが、
その目は真剣だ。
「天然物なのに傷も無い、色も形も完璧な
ロコが
「ちょちょちょっ、若様待つにゃ、ちょっと待つにゃ」
ニャムスが、サッと間に入ってきた。
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